第20話:悲惨
一辺一メートルもないはずの箱から出てきたのは、全長二メートルはあるだろう魔物――パラサイトウルフだった。
その目は虚ろであり、とても見えているようには思えない。耳や口からは触手のような何かが出てきており、よだれも垂れていて不気味だ。意識があるのかすらわからない。それがパラサイトウルフなのだ。
こいつに噛まれたらすぐに治療や解毒をしないと寄生虫に乗っ取られて全身を餌にするハメになるため注意が必要な相手だ。
「そいつはBランクの魔物であるパラサイトウルフ! 貴様ごときでは倒せないだろう。そいつの餌になるがいい!」
……知ってる事しか言わないなこいつ。俺をそんな浅学だと思ってるなんて身の程が知れる。
「
指で銃の形を作りバン——と頭を狙い撃つ。
しかし悲鳴も何もあげず、ただこちらを獲物として見ているだけだった。頭に風穴が空いたくらいしか変化はない。
「まぁ、やっぱりそうなるよな」
「余裕そうに振る舞っているのはどうせ見栄を張っているのだろう? 内心では恐れ慄いておるはずだ」
自分が優秀だと思った瞬間に饒舌になるんだな、こいつ。小物らしくていいじゃないか。恐れ慄くのが自分になると思っていないらしい。
するといきなりパラサイトウルフが動いた。飛びかかってくるようだ。俺は噛まれてはいけなと思い風を起こし飛ばす。
……なんだか面倒だな。もう終わりにしてもいいかもしれない。
「
燃え盛る槍がパラサイトウルフに衝突し――爆散。気味の悪い色の臓腑が辺りへ飛び散った。
「ラナトル、大丈夫か?」
「あぁ。こんくらいなら慣れてるから大丈夫」
「良かった。ちょっとやりすぎたかと心配になってしまったよ」
これで気分を悪くされて吐いたりでもされたらフェルソンに顔向けできない。経験は少ないとは言え魔物討伐をしたことがある人で良かった。
「くそっ、どうしてこんなガキにやられるんだ! 俺にもっと力があればッ!」
そう吐き捨てるボスの耳に、パラサイトウルフの臓腑の一部がちょこんと乗っていた。それはうねうねと動き、耳の中へと入っていく――
「んあ? ア。ンア?」
これがパラサイトウルフ――いや、
だから炎系統で攻撃したんだが……ちょっとミスをしてしまったな。これくらいならなんとかなるから良かった。
ちなみにヴォルトの三人組も戦闘の怖さに縮こまって奥の方へ逃げていて助かっていた。被害はボスだけか。なら問題ないな。
「ハ、ハケツだョ。どコモかすない!」
「完全に精神まで侵食されたか。悲惨だな、これは」
既に言葉がめちゃくちゃで、見た目もだんだんゾンビのようになり始めた。皮膚の色は赤紫に染まっていき、身体が肥大化し目は虚ろに、耳も口も触手やよだれなど同じように変化してしまった。
「ボスが変なことになってる……!」
「ひいぃ! 怖いっ!」
「兄ちゃん! さっさと殺してくれ!」
「分かったって……いいのかそれで」
まさかボスも部下にこんな事言われると思っていなかっただろうな。なんだか可哀想になってくるがここで手を抜く訳にはいかない。これはゾンビとそう変わらないのだから。
ゾンビ、殺す。鉄則だ。
「まずは
この前危うく火事になりかけた
「ブオオオ。アツイ!」
その熱さを気にも留めていないかのような振る舞い。その発言もただびっくりしただけに思える。
「ならば……
まずは一本腕を落とす。その断面は高温により焦げたことで出血はしていない。
「アッア。ヌアイエジェシコ!」
「腕が無くなって言う……言葉? がそれかぁ。もうダメだな」
先程までは少しだけ理性が残っていたものの、もはや無くなってしまったらしい。誠に残念だなー。
と、そんな事を思っていたその刹那。焦げたはずの断面から腕が生えてきた。
「腕が生えてきた!?」
「どうすんだよこれ……」
「頑張れ兄ちゃん!」
仲いいなぁほんと。しかし俺も呑気でいられないな。
「ナイェオア!」
ついに反撃し始めた。その生えたばかりの腕を思い切りうちつけ、勢いよく反対の腕で俺を殴ろうとする。俺は後退しそれらを回避する。
「
炎がダメならば、と岩属性に切り替える。
「イェソド! グノスユタッガハ!?」
腕を落とされ、次はかなり驚いているようだ。どうやら岩属性が苦手で正解なのだろう。このギャンブルにはいつも苦労させられたな。
「もう終わりにしてしまおう。
空中に突如出現した黄金の岩。大きさは数メートルほどあるだろう。
それはボスだったものへと高速で落下していく。
そして衝突した刹那、見た目は石のように変わってしまった。その後はぴくりとも動かず、ただそこに存在するのみになった。
「す、すげぇ!」
「もう動かないんだな!?」
「さすがだぜ兄ちゃん!」
奥から飛んでくる歓声に、なんだか笑顔になってしまう。面白いなこいつらは。仲間にしようとして正解だったと思える。
「すごかったよ! あたしもこんな風に魔術を使えたらなぁ……!」
「ラナトルはもう上級炎魔術が使えるじゃないか。これから練習していけばきっと成果が出る。素質はあるはずだよ」
「そう言ってくれて嬉しいよ。もっと練習頑張らなくちゃ。その時は、あたしに指導してくれるっ!?」
「もちろんだよ。でも俺は来年には学院に入らなきゃいけないからそれまでかもね」
「え、そうなのか。だったらあたしも行っていいかな!」
そうだ、彼女には素質がある。ゲームで出てこなかったのは誘拐されてしまったからで、もし誰かが彼女の好奇心に火をつけていれば学院で会うことがあったのだろう。その火付け役が俺だったわけだ。
「いいんじゃないかな。国も学費の援助をしているし金銭的にも問題はないはずだ。もしフェルソン卿が渋るなら自分で学費を稼ぐという名目で冒険者をやればいい。完璧な計画だと思うな」
「やっぱり頭いいなぁ……! ありがとう、そうするよ!」
さてと。置いてけぼりなヴォルトの三人衆をどうにかしないと。
「さて。結局五十万ラクスは獲得できなかったわけなので俺が乗り込んで強奪してきてやる。面倒くさいので明日でいいかな。今日の分は俺が出してやるから、それで用意を整えてくれ。わかったか?」
ポケットから金貨を一枚取り出して軽く投げる。それは真ん中に座っていた男が大事そうにキャッチした。
「身なりも綺麗にな。待ち合わせ場所は公爵屋敷の前、時間は八時でよろしく」
「分かったぜ!」
「八時だな、頑張るよ!」
「待ってるぜ兄ちゃん!」
さすがに
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