第16話:誓い
「あぁそうだ。ホルコス、彼女らをここに戻してくれ」
「承知した」
魔術的な契約はまだしていないが、既に主従の関係と言っても過言ではない。そのためか先程よりも物腰柔らかく、優しい対応に変わったような気がした。
数秒後、遠くにいた二人が一瞬にして目の前に現れた。改めてここはホルコスの領域なのだと感じる。
「話は聞いていたよ。まぁ……まずはおめでとう、かな。頑張ったねエディ」
「ありがとうジヴリナ。ジヴリナのおかげだよ」
「えへへっ……照れるなぁ」
やはり美少女が微笑む姿は様になる。絵の才能ってあったかな……悪役は絵とピアノが上手いというのはよくある話だが、俺はどっちも習ってないんだよな。
いつか彼女の姿を描いて永遠に残したい。
「ご主人様、すごかったのです! 真っ黒でなんにもみえなかったのです!」
「そうだな。あれはすごいんだぞ」
「ねぇエディ、結局あれは何だったの? 上級魔術師である私でも何一つわからないんだけど……」
そうだった。説明がまだだったな。
「おほん。ではエディ先生の魔法講座を始めよう」
「はい先生! 魔法って何ですか!」
「魔法とは人知を超えた魔術の究極系だ。その力は神の如き力――もはや扱えるのは神くらいなものだ」
「はい先生! さっき使ってたあれは魔法ですか!」
「いい質問だ。先程のものは魔法だ。といっても再現された模造品に近い。この空間は審正龍、即ち神の支配下にある。だから似たような力を引き出すことができたという訳だ。もし現実でやってもまだ再現は出来ない」
魔力というのは一種のエネルギーだ。電気や風、水力などと同じ類いの。
しかしそれより上位のエネルギーが存在する。ゲーム内では「虚空エネルギー」と呼ばれ、魔力を使った魔術を無視して世界にその効力を強制させることが出来るのだ。
……とまぁ、少し難しい話なのでジヴリナには言わなかった。それにここにも虚空エネルギーは溢れている。だからこそ俺は
「はい先生! まだ、とはどういうことですか!」
「まだ俺の身体は発達しきっていない。魔法を扱えるほどに達していない。俺が学院に入学する頃には習得してみせよう」
発達、というのはあまり正確ではない。本当はユゴスによって与えられた力で能力を開放し、使えるようになったからだ。
「もう聞きたいことはないか?」
「うん、ないよ。色々ありがとう」
「じゃあホルコス。契約に入ろうか」
「ふん、やっとか」
不満げに鼻を鳴らしたホルコスは俺との中間地点に魔法陣を展開した。
「――我、世界に宣言す。この者の力を認め、その誓いを共に果たすことを」
「――我、世界に宣言す。かの者の力を借り、この誓いを共に果たすことを」
「
刹那、ホルコスの姿が白い光にかき消された。
「汝、誓いをここに宣言せよ」
「俺は――世界の全てを救う英雄となる!」
その光はだんだんと姿を変え、小さい人の形を成した。
「綺麗……」
確かにそうだな。これは中々に神秘的と言えるだろう。世の中の学者が発狂するような貴重な体験なんだがなぁ。
ちなみにプレイヤーはこの景色を「結婚式」だと表現する人も多かった。ゲームではもっと禍々しい雰囲気だったのもあり、よりその言葉の意味に近づいたと思う。なんだか気恥ずかしくなってくるな……
「――誓いはここに成った。妾はそなたをマスターとして行動しよう」
光が消え、現れたのはシスター姿の幼女だった。
「可愛いっ……!」
ジヴリナは目をキラキラさせて感動しているようだ……別にその貴重さについてなどではなく。
「これからよろしくな、ホルコス」
「こちらこそよろしくじゃ、エブティケート」
互いに歩みよって手を握る。見た目の幼さに反してその力は強く、中身が人間ではない事が一瞬で分かることだろう。
「そろそろ出ようか。ここに戻ってくるのはまたあとになりそうだ」
「そうじゃの。ほれ、転移門を開いたぞ。早く入れ」
その手が示す方向には外の――俺たちがいた場所だ――景色が見えていた。皆で顔を見合わせ、一斉に飛び込む。
「よっ、と。じゃあギルドに帰ろうか」
「ご主人様、ちょっと待つのです」
「どうした?」
アルマロスが何かを言うなんて珍しい、そう思いながら耳を傾ける。
「このホルコス? がすごい龍なのは分かったのです。それと会ったのをギルド? に言ったら大変なことになるのです!」
「……あっ」
「それにそれに、名前もバレちゃうのです!」
「……あっ」
どうやら俺はだいぶ向こう見ずなようだ。計画性がないなと痛感する。
「ならばこうしよう――ホルコスは見つからなかった。ただ王都の方へ向かった痕跡があった。そしてホルコスは無関係なこの少女は森にいたのを保護しただけ。名はルコ」
頭の回転は早い方だからな、意外といい感じなのではと自負している。辻褄も合う……はずだ。
「マスター、名前がルコはさすがに安直すぎるのではないじゃろうか?」
「別にいいだろ。名前考えるの面倒なんだし。間違えにくいだろ?」
「まぁ勝手にせい。どうとでも呼べばよかろう」
言葉は怒ってるようだが、口調は全然そんな事はない。どちらかと言えば呆れだ。なんか悲しい。
「皆、準備はいいな? 帰るぞ」
そこからギルドに帰るまで、そう時間はかからなかった。魔物とも遭遇せず、平和な帰り道だった。
「コミア嬢、いるか?」
「はいはーい、ここに……ってまた可愛い!?」
受付嬢がしちゃいけない顔してるんだけど……? 本当にこの人は大丈夫なのだろうか。疲れているんだろうきっと。まるで捕食者の顔だ。
「この子を冒険者登録したくてな」
「あっはい! では情報をここに記入してください」
どうやらホルコス、背が小さくなりすぎて机にギリギリ届かなかったようだ。バレないようにこっそり飛行してるし。
「ほれ、これでいいか?」
「かわっ……じゃなくて。はい、問題ありません。では奥の方で――」
あーあ、またあの岩壊されそう。
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