第14話:ギルドにて

 ジヴリナが硬直している間に収納をし終えたので、俺たちはそのまま冒険者ギルドへと向かった。

 ちなみに皆で倒したオークの数は168体だった。こりゃ買い叩かれるな……小出しにしよっと。


 それと同時に魔石もがっぽり手に入った。オークキングの魔石は普通のオークのものより大きく、質も良さそうでかなり得した気分だ。

 まぁ、魔石は回収するのが努力義務になっているので持ってきたという側面もある。放置しておくと、他の魔物が食べて強化されてしまうのだ。


 ちなみに魔石というのは、簡単に言えば心臓のようなものだ。魔力を溜めたり送り出したりする能力を持つ。実は魔石は人間にもあるが、見た目が魔物が持つものとかなり違うため、一目見ればすぐに分かってしまう。


「あ、こんにちは閣下。今日はどうされたんですか?」

「この前受けたオークの討伐依頼の報告と納品だ」

「了解です。では隣の解体場へどうぞ。あ、荷物を取りに行ってからで問題ないですよ」

「気遣い感謝する。だが先に話をしておきたいので失礼する」


 コミア嬢がいてくれて助かった。話を通すのは面倒だからな。


 この前は闘技場――ギルドの奥だ――に向かったが、今回は隣が目的地。そこは解体場で、魔物を解体するスペースとしてよく使われている。貴族ならば持って帰るのも容易いため、どちらかと言えば貴族向けな気がするがな。


 そんな解体場には熟練の職人然とした男が数人いた。皆刃物を持って何かの肉を切っている。中にはドワーフのような見た目――背が小さくひげが多い――の人もいた。


「今、少しいいだろうか」


 俺は正直内心ビクビクしていた。集中しているときに声をかけられることの苦痛は理解しているつもりだからだ。「うるせぇ帰れ小僧!」とか言われないか心配になるくらいに。


「おぉ坊主。なんだ、仕事の依頼か?」

「……オークの解体を頼みたい。依頼品だ」

「あいよ。で、その肝心のオークはどこに?」

「ここに」


 そう言って俺は十体ほどのオークを取り出す。

 虚無からドサドサとオークが出てくるという光景に彼らは皆唖然としていた。


「い、今一体どこか――」

「あーっと、そういえば自己紹介をしてなかったな。私はエブティケート・ジスティアという。よろしく頼む」


 華麗に礼をすると同時に小金貨を三枚チラリと見せる。そうすればすぐに皆押し黙って軽く相槌を打った。

 

 もちろんこれは買収なんかじゃない。ただ彼らを良い気分にさせたいだけだ。俺は情報が漏れないから安心、彼らは秘密を言わないだけで金がもらえる。誰も損をしない素晴らしい行動なのだ。


 恐らく日本人でも一万円小金貨をチラつかされたら少し考えてしまうだろう。だからセーフ。


「俺はデルマーレ、こっちがラドマーレ。俺たちは兄弟だ」

「よろしくな兄ちゃん」


 挨拶しつつ軽く頭を下げたラドマーレ。確かに二人は似ているな。あんまり見分けがつかない。


「で、こっちのドワーフがフォジド。職人仕事ならなんでも出来る万能の男さ」

「おめぇ、あんまりそういう事言うんじゃねぇ。実力以上の名声はいらんのだよ」


 くぅ~。かっこいいぜ兄貴……じゃなくてだな。やはりドワーフという予想はあってたか。これは名言だ。いつか使ってみたい言葉にランクインだよ。


「では早速頼んだ。俺は依頼の報告をしてくる。そう急ぎでもない、ゆっくりやってくれて構わない」

「おうよ。じゃあな兄ちゃん。また後で」

「あぁ」


 そう言って俺は小金貨を三枚渡した。


 基本的にはデルマーレが応答役のようだ。ラドマーレとフォジドは必要なときだけ喋るという寡黙な職人感あふれる人物なのだろう。いいね。


「戻ってきたぞコミア嬢。報告せねばならないことがたくさんある」

「はい、ではお伺いします」

「まず、俺たちはオークを百体以上討伐した」

「はいはい百体――ってえぇ!? それ緊急事態じゃないですか! いや待って討伐!?」


 貴族の前でそんな反応したら眉をひそめられかねないぞ……まぁ気持ちは分かる。心は庶民な俺だ、そう野暮な事はしないさ。


「それにオークキングもいた。もちろんこれも討伐した」

「あ、ああああああ。あああ」

「コミア嬢っ……! 壊れないでくれよ!」


 慌てて周囲を見ると、そこには俺と同じように焦るジヴリナと何がなんだかよく分かっていないアルマロスがいた。呑気だなぁおい!


「アルマロス、彼女を正気に戻してあげてくれ」

「は、はいなのです?」


 とてもよくわからない指示だろう。俺もそう思う。

 だがコミア嬢はケモナーな気がしてならないのだ。多分なんとかなる。


「こ、こみあ。正気に戻るのです。ご主人様が心配してるのですっ」


 あどけない子どものようにそう呼びかけたアルマロス。するとすぐに効果が表れた。


「は、はひぃ! 正気に戻りますアルマロスちゃん可愛い!」

「俺は間違っていなかったが間違いを犯したのか……無念」

「私は死んでません! コミアは復活しましたよ!」


 元気そうで本当になによりだよ。幸せそうだ。


「とにかく。辺り一帯のオークは討伐済みだ。ただ巡回依頼を出しておくべきだと提言する」

「もちろんです。そのようにさせていただきます」

「それともう一つ。もしかしたら見えたかも知れないが、審正しんせい龍が飛び立った。何かあったのかもしれない」

「それ実は上から聞いています。原因究明のために調査依頼を出そうとしていたんですが……ちょうどいいので閣下が受けますか? 昇格クエストも兼ねてで問題ないですよ」


 その言葉に思わず動揺してしまう。

 そうか、昇格……オークキングも討伐出来るならば至極当然か。俺にとってもちょうどいい。嬉しいな。


「もちろんだ。その依頼、受けさせてもらおう。昇格クエストにしているってことは、ギルドは重く受け止めているんだな?」

「はい。そもそも森の奥、しかも街道から外れた場所へ入るわけなので難しいクエストになるのは必然ですが、龍が関連していることもあるのでBランク以上だと指定されていますので」

「分かった。なら今日は報酬を受け取って帰る。また明日出直すから準備をしてくれると助かる」

「了解です。本日のクエストお疲れ様でした。これが報酬の小金貨三枚で三万ラクスとなります」


 コミア嬢から渡された三枚の小金貨を懐にしまい、二人の方へ向き直る。


「ジヴリナ、明日も予定は空いているか?」

「えぇ。問題ないわ」

「アルマロスは……大丈夫か。明日も頑張れるな?」

「はいなのです! アルマはまだまだ動けるのです!」

「偉いな。じゃあ帰るか」


 気づけば外は日が傾き始めていた。またセラに怒られたくはないので、少しだけ足早に帰路につく。ジヴリナはきっと疲れているだろうからな、早すぎると可哀想だ。俺は問題ないけどさ。


「はぁ……」


 昼間に起こった出来事が濃密すぎたせいか、日常はあっと言う間に過ぎ去ってしまった。今の俺はベッドに横たわっている。


「ストーリーが少しずつ変わっている気がしてならないな……まぁいいだろう、変えなければならないものだったのだから。俺は魔王なんかには絶対にならない。世界を救う勇者の一人になればいい。主人公と肩を並べるほどに!」


 天井に手を伸ばしながら独りごつ。


 そう、まだまだこの世界には夢が広がっているのだから。

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