第13話:オークキング戦
大きさは三メートルはあるだろうか。遠くからでもその威圧感が伝わってくる。手に持つのは棍棒などではなく鉄の斧。身にまとうのはノースリーブで前が開いたタンクトップのような毛皮だ。
「ブモオオオオオ!」
「これは……かなり骨が折れそうだな。けどまぁ、今回は闇魔術禁止縛りでいってみることにしよう」
さすがにここで
しかしそれまでは戦う。ゲームで培ったプレイヤースキルは肉体には応用できないのだから。
「かかってこいよ! 喧嘩上等だ!」
「ブモオオ!」
さすがに挑発されたことくらいはわかったのだろう。斧を大きく振りかぶって襲ってきた。
「まずは補助系魔術と剣術縛りから。
上から振り下ろされる斧を軽い身のこなしで躱し、鞘から硬くなった剣を抜きその大きな手に突き刺すと、大きく鳴き声を上げると同時に血が流れ出る。そして思い切り引っこ抜けば血が溢れ出した。
「ブモッ……!」
もし人の言葉に翻訳するなら「貴様ぁ!」とかだろうか。剣術でも相手取れることが分かったのは自信につながるから嬉しいな。
「
次に使ったのは二つの補助系魔術。
片方はお馴染みである全体的な身体能力の向上。
もう一つの方はその名の通り「身軽」になる魔術だ。ジャンプ力が高くなったり、腕が軽くなったように感じるだろう。それらを組み合わせるとどうなるか。
たんっ、と地面を蹴って大きく跳躍すれば、オークキングの頭の位置まで跳ね上がることが出来た。そのまま頭の上に乗り、全力で剣を突き刺す。
「ブモオオオ!?」
突然のことに混乱したのか、オークキングの足がふらついて不安定になる。今ここで剣を抜くのは危険と判断し、しがみつくことで振り落とされないようにするのが精一杯だ。
「これは……降りるべきだな。一旦仕切り直しだ」
「さすがに、キングの名を冠するだけあってそう簡単に死んではくれないよな……」
痛みに慣れてきたのか落ち着きを取り戻したオークキング。先程の傷口がみるみるうちに塞がっていき、何も変わっていないように見える――ただし表情は怒りと苦しみに歪んでいるのが分かる。
気づけば斧は頭上まで迫っていた。
「あっっぶねぇ!?」
危うく真っ二つになるところだった。補助魔術あってよかったよ。
次に俺はオークキングの回りを縦横無尽に駆け巡る。回りの木々も利用して三次元的な動きで撹乱していく。どうやらずっとタイミングを見計らっているうようだが、今攻撃しても当たらないと理解しているようだ。
次だ。魔術を解禁しよう。
俺は移動しながら魔術を行使する。
「
刹那、砂漠よりも熱い風が吹き始めた。俺は範囲外ではあるが、微かに感じるだけでも汗がどっと出てくる温度。その
「ブモォ……ブモォ……」
俺の事は鋭い目で見つめながらも、確実に疲労が溜まっている事は一目瞭然だった。荒く息を吐き、汗が滲んでいる。斧を強く握り直して意識を保っているようだ。
「
次に使ったのは吹雪を発生させる魔術。いきなりの気温の変化に戸惑うオークキング。先程の汗が全て自らを攻撃するものと変わり果て、身体がブルブルと震え始めた。薄着一枚なのだから仕方ないのだ。
すると突如、ピキピキ……という音がした。そんな金属音は彼の持つ斧からしかありえないため、注意深く見てみる。そして――パキッという音とともに鉄の部分が落ちてしまった。困惑するオークキング。
「金属疲労ってやつかな? さすが、ゲームにはない
さて、そろそろケリをつけよう。
「
光り輝く七振りの剣がオークキングの首の回りに現れた。困惑し、どれだけ動いてもついてくる様に恐怖を感じているようだ。
「死刑の時間だ」
ついに――その全てが首へと突き刺さり、命を絶った。
「オークキング、討伐完了だ。いやぁ全く、敵キャラの魔術も使えるもんだな」
どうやらこの身体は適正が高いらしい。光魔術や闇魔術はできる者が限られているからな。特に上級なんてもっと使える人が少ない。
「おーいジヴリナ~! 大丈夫か~!」
彼女らの元へ走りながら声をかける。するとすぐに返答が来た。
「大丈夫だよ~! お疲れ様!」
それが聞こえたタイミングで到着した。
互いに目をあわせると、なんだか笑みがこぼれてきた。
「ジヴリナ、どうだった?」
「うん。エディのおかげであんまり被害はなかったよ。私たちだけでも倒し切れた。エディの方は?」
「そうだな、さすがに強かった。剣術だけでは倒しきれない相手だったと思う」
「あんなのに剣術で挑もうとしたの!? もしそれで死んじゃったらどうするの……!」
ジヴリナの言葉には心配と怒りが感じられた。すごい、とか褒める前に心配してくれるのは本当に優しい証拠だ。日本人の心に沁みるな……
「補助系魔術でなんとかなったよ。もちろん最後は魔術で倒したけどさ」
「なら良かったよ……じゃあ帰ろうか」
「ちょっと待って。こいつら全部回収して行こうよ」
「で、でも運んでいくのは無理があるんじゃ――」
そんなときのための魔術なのだよ。
俺は死体の一つに近寄ると、それをその場から消失させた。
「これが
少し決め台詞のように言ったつもりだったが、彼女はぽかんとした顔をしていた。聞こえてなかったのカナ……?
「そ、それって古代魔術とかいうやつだったりしない?」
「確かに。そうかもしれない」
主人公がずっと使っていたから全然気にしてなかった……まあいいか。どうせジヴリナには教えるつもりだったし。
「いやいや、もう気にしないのよジヴリナ。エディはこういう人なんだ。うん。絶対にそう……」
あーあ。なんかもう自己暗示までかけはじめた。さすがにやりすぎたかな?
「ジヴリナさーん……?」
「なんでもないよエディ。ただちょっと頭の中を整理する時間がほしいなって」
その笑顔はどう考えても作り笑いだった。そしてまた硬直。
俺は時間がもったいないのでその間に収納を続けていたが、結局ジヴリナが回復するまでに全部収納し終わってしまった。ちくせう。
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