第12話:オークとオークと
辺りは一面木々ばかり、足元は悪くはないが枝葉が伸びていて危ない。そんなレリア森林の中、俺たちはオークの群れを発見した。
「いち、に、さん、し――六体くらいだな。各自二体ずつでどうだ?」
「私は賛成よ」
「アルマもなのです」
「では俺は真ん中の二匹を狙う。アルマは右を、ジヴリナは左のを頼む」
彼女らの方を見れば、無言で頷いてくれた。
俺は改めて目標のオークを確認する。オークはそのどれも豚が人間になったかのような姿で、醜悪な顔つきと緑色の皮膚はおぞましさすら感じる。しかもほとんど裸体であり、腰に毛皮を一枚まとっているのみだ。手には大きな棍棒を握っている。しかし脆そうだ。
「アルマロス、走れっ!」
「うおおおなのですうぅ!!」
俺とジヴリナは魔術で戦えるが、彼女は違う。二つの短剣を自由自在に扱う近距離での戦闘スタイルなため近づく必要があるのだ。
「じゃ、私も行こうかな。
少し歩いて距離を縮めると、風切り音がするほどに渦を巻く風の槍を生成し放った。
これは実に合理的な判断だろう。
オークの肉は柔らかく脂が乗っているため高級なのだ。なので可食部ではない頭の、特に上の方を狙って倒す事が多い。さらに言えば、岩や炎では傷をつけてしまう恐れがあるため、水か風、あるいは闇属性魔術での討伐が推奨されているのだ。
「俺は……
これは上級闇魔術。闇属性には殺傷能力が高い魔術が多く、呪いの類いも含まれているために一部では禁術指定されているものだ――あぁ、エクレイド王国では使用は自由なので問題ない。
逆に言えばここなら見られていないだろうし問題ない。手抜きじゃない楽はするべきだからな。
「あ、
だがカモフラージュは必要だろう。一本の氷の槍を放ち、即死したので動かなくなっているオークを物理的に倒した。これで討伐したように見えるはず……?
「さすがエディ。早いね」
「そっちこそ。口を残して倒すのは良いことだ」
「……え? たまたまなんだけどな」
「あっ」
俺は牛タンも好きだけど豚タンも好きだよ! ……というのは置いておき、そういえばあんまり食べられない部位だったことを思い出した。頭は切って捨てる部分だもんね。
「なんでもないよ、うん。それよりもアルマロスを――」
話題を逸らすため右の方を見てみる。そこには自らの身長の何倍も高く跳び、華麗に舞いながら攻撃をしているアルマロスがいた。
獣人らしく
「ふぅ~。勝利なのですっ!」
そしてついにオークの息の根を止め、笑ってピースをこちらに向けてきた。ぐぅかわ。
「お疲れ様。よく頑張ったな」
「アルマにはこれくらい簡単なのです!」
「お~よしよし」
「私もやるっ。よしよし~」
「く、くすぐったいのです~!」
二人してアルマロスの頭を撫でくりまわしている。耳の付け根を撫でると時折嬉しそうにピクピクするのが可愛くてたまらない。あぁ~癒やされる。昔飼っていた猫を思い出すな。
「んっ? なんか寒気がするのです……」
「確かになんか感じるな。とても……強大な魔力を」
「え、何も感じてないの私だけ? 酷いよ~」
ジヴリナには申し訳ないが、これは明らかに異常事態だ。俺もアルマロスも鳥肌が立っている。
「ねぇ、何かすごい足音が聞こえない? ドドドーって」
そうジヴリナが呟いた刹那、どこからか強い風が吹いた。
「うっ……!」
「にゃああ!」
「くぅ……!」
目も開けられないし、近くの木に掴まっているのがやっとなほど。天気が悪ければ台風を疑ってしまうくらいの風――これは本当にただの自然災害だろうか。
「見て! あれって!」
「――龍、だ」
その二対の翼を大きく動かしながら上空へと羽ばたいていく純白の龍。あまりの壮麗さに、もはや神聖さすら感じた。それは穢れを一切知らぬかのようだったから。
そのことに俺は驚きを隠せなかった。あれは――
俺が悪魔によって闇落ちした後、かの龍は正義に仇なす者として俺を
「ご主人様! お肉がいっぱいこっちに来たのです! いちにぃさん……数え切れないほどなのです!!!」
突然叫ばれた言葉で現実へ引き戻される。遠くを見れば無数のオークが――もしかしたら本当に百匹いるかもしれない――そこにいた。
「俺が突っ込んで倒しまくってくる。だから二人とも、討ち漏らしを頼んだ」
「分かったわ」
「了解なのです」
俺と同じ場所での戦闘は彼女らには荷が重すぎるだろう。どこかで集中が切れてしまったらお終いだ。間違いなく、なぶり殺しに遭う。それだけは嫌だ。さすがに時間を巻き戻す魔術は知らないからな。
そして俺は振り返ることなく走り始めた。
「さすがに素材とか言ってられないよな!
オークの大群に向けて放ったのは、巨大な渦潮にも見える水の竜巻。どんどん吸い込み、その身体を粉砕し消し去っていく。恐らく素材は一つたりとも残らないだろうが仕方あるまい。
「次!
地面から無数に現れたのは緑の槍。それらはたやすく皮膚を貫通し、消滅していく。それを何回も発動することで死体の山を作り上げた。これぞ肉壁、というやつだろう。
――果たして何分が過ぎただろうか。いつしか作業じみてきたところに大きな音が響いた。幻聴のように聞こえたそれも、何回も聞こえてきたことにより現実であると理解することになった。次第にそれが足音であると気づき、それと同時に近づいていることも感じとれた。
そうしてついに姿を現したのは、普通の個体よりも数回り大きいオークの王、その名の通り「オークキング」であった。
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