第11話:魔物討伐へ
「おぉラナトル! 無事で良かった!」
「ただいま親父。帰ろっか」
「そうだな。……あぁ、この度は大変ご無礼を――」
娘との会話が一段落し、俺の存在に気づいたようだ。頭を軽く下げ、謝罪の意が感じ取れる。
「いえ、どうかお気になさらず。ただの暇つぶしでしたから。彼女との観光は楽しかったですよ。ぜひともまたお会いしましょう」
「もちろんでございますエブティケート閣下。それとこれはお礼でございます。どうかお受け取りください……!」
そう言ってラナトルの父親は小袋を取り出した。受け取ると意外にもずっしり重く、小金貨が数枚入っていることが予想できる。数万ラクスか、ありがたいな。……まぁ、プラマイゼロなんだろうけど。
ちなみにラクスとはこの世界の共通貨幣であり、日本円と同じ価値と考えて問題はない。メイド・イン・ジャパンだ。
「ではありがたくいただきますね。これからも我らが領地に訪れてくださると嬉しいです」
「もちろんでございますとも! では失礼致します!」
公爵子息との繋がりを得たからか、それとも娘が幸せそうな顔をしているからか分からないが、彼自身もにこやかな顔でその場を去っていった。
夕日に向かって手を繋ぎ並んで歩く二人の影が長く伸びている。その姿に親子の絆や愛情を感じてなんだか――って夕方!? いますぐ帰らないとやばい!
「えーっとここなら大丈夫!
慌てて人に見られない場所を探し、転移を発動する。そして平静を装い入り口へ歩いていく。
「ただいまセラ――って顔怖いよ!?」
「エディ様。ちょっと遅くないですか? そ・れ・に! 少し暇が出来たので街を探していたらエディ様が大勢の前で何かを言っていましたね。その後可愛らしい女の子と仲良くおしゃべりしてましたよね~?」
笑顔なはずなのにとても怖い。後ろから黒いオーラが見えた気がするほどに。なんなら寒気も、いや気温が下がったようにすら感じる。てか顔近いって! やめて~!
「あ、あれは人助けをしてたんだよ! 怪しげな組織にさらわれかけてたから助けて、そのあと観光してみたいって言うから色々なところに連れて行ってあげてさ……!」
言い訳ではない筈なのに、なぜだか自分でも言い訳にしか聞こえない。身振り手振りをしてることもその要因なのだろうか。
「もう、わかりましたよ。そんなに焦らないでください。メイドとしてそんな顔は見たくありません」
「セラが言ってきたんじゃん!?」
「ふふっ、失礼いたしましたっ」
そう言って俺から離れるセラ。今度は黒いオーラも見えないし、気温も低いように感じない。思わずほっと息をついてしまう。
「さぁ、早くお入りください。お夕飯がそろそろ出来ますよ」
◇
それから一夜明け、俺はまたもや軽装――軽快で冒険者らしさを感じる――に着替えていた。
「アルマロス、武器は持ったか? 準備は出来たか?」
「はいなのです! 準備バッチリ、なのです!」
「よ~し偉いぞ~!」
健気にサムズアップして笑う姿が愛らしくってつい頭を撫でてしまう。するとなぜか無いはずの尻尾が高速回転している幻覚が見える。もしや俺、疲れてるのかな?
「んっ……!」
下唇をかみながら、無言の上目遣いでこちらに頭を突き出すセラ。俺はその意図がよく分からずキョトンとしていると、セラは更に距離を詰めて頭を突き出す。
「分かったって。撫でてほしいんだろ? よしよし~」
「えへへっ」
満面の笑みで喜ぶセラ……おかしいな、天使みたいだと思っていたのに気づいたらペットだよ。何が彼女をこんなにも変えてしまったのだろうか。
「さっ、もう行かないと。行ってくるね、セラ」
「はいっ! 行ってらっしゃいませエディ様っ! お気をつけて~!」
どうやら満足したらしく、語尾に♡が付きそうな勢いでお見送りをしてくれた。やっぱりペットかもしれんな。
そうしてアルマロスと共に歩いて数分。中庭にはしっかりと装備を身にまとったジヴリナがいた。
「あっ、おはようエディ。この子が例の?」
「そうだよ。十分な強さは持ってるだろうからきっと足手まといにならないはずさ。そうだよな?」
「はい! アルマは強いのです!」
「ふふっ、可愛い子ね。よろしく」
「よろしくなのですっ」
どうやらジヴリナはアルマロスのことをいたく気に入ったようだ。薄紫の髪を揺らして楽しげに戯れている。仲が良さそうで何よりだね。
「じゃあ行くぞ。向かうはリガルレリアの東にあるレリア森林だ!」
思えばこれが始めての外出――リガルレリアの外という意味でだが――になるな。ゲームで駆け巡ったあの大地が待っていると思うと胸が高鳴る。起きてから心臓がドクドクしっぱなしだ。
そんなリガルレリアは城塞都市だ。そのため高い城壁に深い堀、跳ね橋など様々な設備が揃っている。壁の上にはバリスタなんかも見えるな。
――そしてリガルレリアを一歩出れば、そこはもはや別世界だった。
息を吸う。それだけで肺の中の空気が新鮮なものになった気がした。別に大気汚染があるわけでもないが、気分はとても大事だから仕方ない。だがそれと共に冒険の始まりを感じた。
だって、ゲームで見た光景が、そのままそこにはあったから。
「確か依頼内容はオークの討伐だったよね? どれくらい倒せばいいの?」
「確か五匹くらいかな。それ以上は報酬が増えるけど、数が多すぎると増える額は減っていくから倒しすぎないようにしないとね」
「そうだね。エディなら百匹とか倒しちゃいそうだもん」
「いやいや、そんなにいたら街が危ないよね……」
「倒せることについては否定しないんだ……」
だって実際に倒せる気がするからね。嘘はつけない。
そうして街道沿いを歩いていれば、すぐに森の中へ入った。歩けば歩くほど、鬱蒼とし始めて足元も悪くなっていく。さすがに道はあるためそこまで不便でもないのだが。
「くんくん……どこからかお肉の匂いがするのです」
「
「もちろんなのですっ」
アルマロスの言う通り、肉――じゃなくってオークが数匹いるのが確認出来た。
「ジヴリナ、アルマロス。準備はいいか?」
「大丈夫よ」
「はいなのです」
では、オーク狩りを始めるとしよう。
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