第9話:ユゴスに悪人にエトセトラ
タッタッタッ……少し薄暗い路地に響き渡る二つの足音。
一つは俺。そしてもう一つは、とある集団の尖兵のものだった。
「……いつまでこの鬼ごっこを続ける気だ? ユゴスの配下さんよ」
「やはり貴様は知っているのか。ならば話は早い。単刀直入に言わせてもらう。我々の軍門に下れ、ジスティアの子よ。いや――悪魔の力を持つ者よ」
あぁ、これは全くもってストーリー通りだ。俺はここでユゴスへ入ったのだ。彼らと共に世界を破滅へと導いたのだ。作中屈指の強さと重要さを持つ組織、それがユゴス。
「せめて王子くらい出してくれなきゃ話にならんな。俺をなんだと思ってる」
「ちっ、貴様どこまで知ってる」
「さぁな。だが……全部、とか言ったらどうする?」
「……そんな戯言、信じるものか」
「お前らさ。俺の事を安く見積もりすぎだよ。簡単に利用できると思ったら大間違いよ~」
「舐めた口をっ!」
深くフードを被った黒尽くめの男は激昂し、暗器を投擲してきた。もちろんしっかりと避ける。
ただ……さすがに煽りすぎたかもしれないな。はんせー。
「さぁさかかってこいよ。悪魔の力に勝てると思うなら、な?」
「
「
相手が放ったのは三つの岩の刃。それを受け止めるために二つの大きな岩の壁を創造し、四つの炎の柱で相手の四方を囲む。
次の瞬間、岩と岩がぶつかり、ゴロゴロと壁が崩れる音がした。しっかりと全て防げたようだ。そしてその向こうでは困惑する黒尽くめ。どうやって抜け出せば良いかを思案しているのだろう。
「余裕ぶってていいの?
「ちっ、
風の渦で炎を巻き込むことで大ダメージを狙ったが、水の中に閉じこもってしまった事で目論見は外れた。残念だ。
「君、下っ端でしょ? 使徒じゃないんでしょ?」
「うるさいっ!」
むぅ。俺はただ聞いただけなのに。その返答は投げナイフ数本だった。面白そうだから受けてみるか。
「……貴様、それくらい避けるのは容易いだろう」
「これ、『ハスターの毒』が塗られてるだろう? 俺ならっ……なんとかなると思ってな」
「バカなのか? それを受けて死ななかった者は一人もいないぞ!」
「悪魔の力はそれをも上回るのだっ!!!」
無理やり自分に発破をかけ、ナイフの傷を魔術で治療する。しかし体内は治療しない。毒を排除されては困る。
「あぁ……! 魔力がさらに増えた感覚を感じるぞ! 今や俺は王子とも渡り合えそうだなぁ!」
「こいつ……イカれてるのか」
イカれてる? ははっ、鬼畜ゲーをやりつくし、探索度100%を達成するような奴がイカれてないわけないだろう!
「さぁ、かかってこいよ!」
「
「俺を殺していいのかぁ?
無数に現れた氷塊がこの場を埋め尽くす。それにより槍は全て防がれ、残った氷塊が逆に黒尽くめへと襲いかかる。
「
反撃することはせず、防御に留めたか。俺の言葉に思うところがあったのだろう。
「……もう降参だ。ここでお前を殺すのも、俺が殺されるのも望ましい結末とは言えない。交渉は決裂なのかね?」
「そうだな……三日後。三日後にここで会おう。交渉のテーブルについてやる。ただし、それ相応の扱いをすることだ。いいな?」
「分かった。それではまた会おう」
男はそう言って影の中に沈んだ。
「ははっ、良いこと思いついたな。英雄とは闇の中にも潜んでいる、ってな」
どこかで聞いたようなセリフを口ずさみ、家へと足を進める。だが、どうせなら帰るのは夕方にしよう。ここでまっすぐ帰るのもなんだか味気ない。
「おぉ、そこな少年よ。少しいいか?」
「ん、どうされました?」
そんな事を思いながら歩いていたら、突然壮年の男性に声をかけられた。その顔はいかにも「困ってます」と言いたげで、申し訳なさそうな表情だ。
「その……実は遠くから娘を連れてやってきたのだが、その娘がどこかへ消えてしまってな。ワシは見ての通りあまり若いとはいえない。なのでどうにか探し出して欲しいのじゃ。もちろん報酬は出させてもらう……!」
「そういう事ならばお安い御用です。娘さんの特徴を教えていただけますか?」
「あぁ。娘の名はラナトル。ワシと同じ赤い髪色で、
「了解です。それでは」
困っている人は見捨てられない。それに暇つぶしにも最適だ。なにせここの領主の息子なのだから。土地勘があるのは間違いないのだ。あとゲーム知識も。
俺は足早に近くの路地へ入ると、いくつかの魔術を使った。
「
いずれも上級光属性魔術であるそれらを使い、透明になって空高く浮かび上がった。
どんな方法を使おうが、建物の中を探すのは時間がかかる。もしラナトルが外にいるのならこれが一番手っ取り早いだろう。
「
明らかに悪党みたいなおっさん数人に囲まれ脅されている赤髪の少女を見つけた。少女の後ろは壁。つまり逃げ場がない状況だ。
俺はすぐさまその場所へ飛んでいき――落下する。
「
少女からは奇妙に写っただろう――突然目の前の男たちが浮きあがったかと思えば、その真ん中に少年が落ちてきたという光景は。
「お嬢さん。大丈夫かい?」
「一体、何が……?」
どうやら奇妙すぎて処理が追いついていないようだ。まぁ無理もない。
「いってて……誰だお前!」
「怪我したくないならさっさと帰りな!」
「実に悪党らしい感じだな。
魔術によって、彼らの身体が縄のようなもので拘束された。バランスを崩せば倒れ、そのまま起き上がることは出来ないだろう……って既に一人倒れてるし。何やってんの。
「くっ、なんだこれ動けねぇ!」
「離しやがれ! 死にてぇのか!」
こちらを睨みつけてそう叫ぶ悪党ども。俺を悪魔みたいに恐れるなんてひどいじゃないか。俺は悪魔ではないんだぞ?
「それはこっちのセリフだよ。なぜ彼女にこんな事をしたのか、正直に話してもらおう。嘘を言ったら殺す」
「はっ、そんな冗談誰が真に受け――」
「
「あ、足が――!?」
「これはね。とても邪悪な炎なのさ。普通の炎なら黒焦げになって終わりだけど、こいつは人を『食う』んだよ。だから足が焼ければ綺麗さっぱりなくなる」
「分かった! 正直に言うから!」
うんうん。話が分かる人のようで何よりだよ。
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