第8話:新しい家族と影
「じゃあ行くぞ。ついてきてくれ——あぁ、鎧は脱いでいいぞ」
「……は、はいなのですっ」
なぜか赤面しだすアルマロス。不思議に思いつつ見ていると……
「ちょっ!? なんでお前裸なんだよっ!」
「わかんないのです……」
「俺が悪かったから! もう一回鎧着てくれぇ!」
決して大きくはないが、無いわけではないそれが二つ。それに下も――っといけない。これ以上見ては大泣きしてしまいそうだ。すでに涙を浮かべているし。
「ま、まぁ気を取り直して。行こうか」
「分かったのです」
そうして今まで歩いた道を戻り、ロビーにやってくるとそこには二人の人影が。
一方は白を基調にした冒険者風の服をまとい、黒いセミロングの髪を持つ少女。もう一方はどこかの民族風の衣装で、淡い水色のロングヘアの少女だ。
「なぁルミネ。知ってるか? ここには不壊の呪いがかかってるんじゃないかって噂されてる岩があるんだ!」
「へぇ。そうなんだ。私は壊せるかな?」
「ルミネならできると思うぞ!」
彼女たちはゲームに出てきた人物なので顔を知っている。
ここに来ることは知っていたのと、実際に見てみるとやはり可愛いというのでルミネの顔をこっそり見る。すると視線に気づいたのかこちらを見返してきた。
すると彼女は少し驚いた表情になった。だがそれをバレないようにと必死に抑えているように見える。
「ん? どうしたんだよルミネ。なんかあったのか?」
「いや、なんでもないよ。行こっか、ノミア」
「おう!」
健気な少女たちは、そう言って歩き去っていった。
「あれ、閣下。彼女たちを知ってるんですか?」
彼女らと入れ替わるように現れたのはコミア嬢だった。
「あ、あぁ。噂程度にはな」
「やっぱり知ってますか。有名ですよねぇ~! 黒天と水月、なんて呼ばれててかっこいいなって思うんです! 私もあんなふうに強ければなぁ……!」
「そうだな、うん……」
さすがにゲームで知ったなんて言えるわけもなく、噂で聞いたと言えばこの食いつき。どうやらコミア嬢は彼女らのファンらしい。
というか「黒天と水月」という名称はゲーム内にも登場しているのだが……やっぱり変わらないんだな。……俺が破界の魔王と呼ばれないようにしないと。
「あ、これが冒険者カードです。再発行にはお金がかかりますのでご注意を。ランクは――Cからのスタートです」
その言葉に胸をなでおろす。
まず、ランクはE、D、C、B、A、Sとある。Cまでは冒険者になってすぐに与えられるランクであり、B、A、Sは昇格試験などを受けなければならない。三つずつに分けることができるので覚えやすいだろう。
それにEやDではあまりいい依頼が受けられず、上のランクに上がるのにも面倒だが、Cランクならば楽ができるため俺の目標でもあった。
なのでとても嬉しい。
「ありがとう。じゃあ……この依頼でも受けようかな」
「かしこまりました。今回は前金も担保もございません。期限は一週間後ですのでお気をつけを」
「それともう一ついいか? この子を冒険者に登録したいんだが……」
「登録ですね! はい……ってえぇ!?」
コミア嬢のずっと崩れなかったビジネススマイルが一瞬にして消え去った。素が出すぎですよ~。
「戦闘能力くらい把握してるんだろ? ランクも出すことくらい可能なはずだ」
「……分かりました。先に所有権の譲渡だけしてもよろしいでしょうか」
「構わない。早速やろう」
そう言って俺は右手の甲をコミア嬢に向ける。それに合わせてコミア嬢も右手の甲を上げくっつけた。
「《
「《
すると手の甲から光が漏れ出た。その光は数秒間光り続け消えた。
「これでいいですかね。発行手続きをしますのでしばしお待ちを」
そうして待つこと数分。コミア嬢は一枚のカードを持ってきた。
「どうぞ。一応この子、Aランク指名手配犯だったんですよね……なのでCランクからのスタートです。お揃いで良かったですねっ」
「悪いな。感謝する」
「感謝なんてもったいないです! どうぞご贔屓に!」
「もちろんだ」
彼女が浮かべていた笑顔は、紛れもなく心の底からの笑顔だったと思う。本気で嬉しそうにしている姿はさすが受付嬢、とても映えるし美しい。美人揃いなだけはある。
「さぁ、行くぞアルマロス。始めての魔物討伐はオークだ!」
「はいなのです!」
「――ちょっと待ってくださいエディ様。そのまま森へ行く気じゃありませんよね……?」
「せ、セラ……」
「もしかしなくても私の事忘れてましたよね? 視界に入ってたはずなんですけど!?」
そうだった……完全に忘れてた。アルマロスを放っておけなくて視界が狭まっていたのを痛感する。いかんいかん。良くないな。
「ごめん……悪気はなかったんだ」
「くっ、そんな素直に謝られては言い返せないじゃないですかぁ!」
「何? 頭を地面につけてほしいだって? 仕方ない……」
「あぁもうやめてください! 私が悪かったですから! 許しますって! そんなことしたら私の首が物理的に飛んじゃいます!」
「ありがとね。セラは優しいな」
「む、無理がありますっ……!」
俺が誠心誠意心を込めて謝ると、セラは優しい器で許してくれた。
ただその思いの丈を正直に告げたらセラの頬が真っ赤になって目が泳ぎ始めたのは……気にしないことにしよう。あー、なんでだろうな~。
「エディ様、魔物討伐は一回家に帰って、彼女をお風呂に入れたり装備を着させたりしてからですっ。いいですね?」
「分かったって。アルマロス、いい子にできるな?」
「もちろんなのです。アルマはいい子なのです」
「じゃあ俺の家に帰ろう。アルマロスはもう家族だからな」
「っ……! はいなのです!」
目をキラキラと輝かせ、嬉しそうにするアルマロス。その一方、ジト目で不満げな表情のセラ。あとでお菓子上げて機嫌直してもらおう……
「セラ。馬車を出してくれ。もうここに用はないからな」
「準備は出来ておりますので、いつでも出発できます」
「さすがだな。じゃあ出発だ」
セラは手早く手綱を握ると、馬の嘶きと共にゆっくりと馬車が動きだした。窓の外の景色が流れていく様には心が落ち着く。
景色を見るのはやはり良いものだな。冒険の最中に見つけた絶景――なんてのも憧れる。エクマギは景色も良かったし、絶景ポイントもよく知っている。もしかしたら新しい景色に出会えたりするかもしれない。そう思うだけで胸が躍る。
しかしそんな世界に一つ、見覚えのある影を見つけた。
「セラ! 急用が出来た! 夕方には帰る!」
「えぇっ!?」
そう言い残して馬車から飛び降りる。幸い人通りは少なかったために誰かにぶつかることはなかった。
「そういや……
――また一波乱ありそうだな。
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