第7話:善人は獣人を拾う。
「
そこに並ぶ岩の七色はそれぞれ属性を表している。順番に炎、水、風、岩、雷、光、闇だ。
青なら水に、緑なら風に弱いという性質があるため、それらを対応する属性で縦に真っ二つにする。
そういえばこの岩はここ、リガルレリアにしかないんだったかな。だからちょっとした名物になってたりする。訓練場として普通に利用できるため、ここを訪れた貴族の冒険者たちは岩を壊して名誉を手にしようとしてたりするのだ。
「え、ええええ!? 全部真っ二つにいいいぃ!?」
「ふふん。これぞエブディケート様。常識を打ち破り世界を救うお方ですよ」
「すごいです……!」
セラがなんか俺の信者作っているが……大丈夫なのだろうか。目をキラキラしてこちらを見ている二人って……やばいなこの状況。別に嫌じゃないけどさ。
「コミア嬢、次は何をすればいい?」
「あ、はい。最後は模擬戦です。こちらが用意した相手に対し、好きなように攻撃してください。閣下の場合、剣術もできるとのことですので剣を使っていただけると助かります」
「了解した。いつでも始めていいぞ」
「ではこちらにどうぞ」
ここはあくまで岩があるだけのスペース。戦うには邪魔過ぎるので、移動が必要だ。
「この門をくぐれば戦闘開始となります。もしお怪我などされた場合はすぐに申し出てください。対処致します」
「あい分かった。しかしその心配はないと思うぞ」
忠告を受け取り素直に頷く。しかしまぁ……俺が怪我、もしくは死ぬような敵がいるのなら、この国も危ないだろう。滅びかねない。
「さっさと片付けて魔物討伐にでも行こう。そうしよう」
剣を抜いて片手に持ち気楽に構える。
「では……開始です!」
コミア嬢の声が聞こえたのと同時に、向かいの門から全身を鎧に包んだ人が出てきた。両手には短剣を持っている。
こんな円形闘技場みたいな場所で、観客が一人もいないのはなんだか寂しいな……と思ったらセラがいた。ニコニコでこちらに手を振っている。俺は軽く手を振り返したが、すぐに相手を見つめ戦闘態勢に入る。
「歯ぁ食いしばれ!」
剣を両手で持ち直し駆ける。そして相手から数メートル前で跳躍し、剣を振り下ろす。
「っ……!」
「ま、さすがに意識はあるよな」
できれば一発で気絶を狙いたかった。苦痛を与えるのは良い事ではないはずだから。しかし相手は全身鎧、そんな簡単に終わらせてはくれない。
「っ!」
さすがに痛かったのだろうか、少し怒りを感じる。それに続けて反撃をしてきた。
鎧の重さを感じさせないほどに俊敏な動きで走り、短剣を突き刺そうとしてくる。それを俺は軽く躱し、
「……ばぁ、め」
何か呟きが聞こえた刹那、世界が――いや、俺の視界は反転していた。首を掴まれ、短剣の先端がこちらに迫ってくる。
「っ……
咄嗟に魔術を唱え、爆風により距離を開けようとする。しかし首から手が外れただけであり、間合いは依然として変わっていなかった。
「ちょっと! 何してるの!
「っ……こぉ、す!」
「どういう事!?」
どうやら状況は複雑らしい。
まず、全身鎧の中にいるのは奴隷だ。奴隷は魔術によって契約を交わした者のことを指し、命令には絶対に服従させられる。
ここでおかしな点が一つ。コミア嬢が命令権を持っているために「止まれ」と魔術的な命令を下したのにも関わらず、奴隷は止まらなかった。
しかも俺にしか聞こえていないが、明らかに「殺す」と言っている。行動が制限されている奴隷がそんな事できるはずがない。何かがおかしい。
「仕方ない。かかってこいよ。殺せるものならな」
「ころ……す!」
これで俺の勝利は確定した。しかし念には念を入れるため、剣を抜いておく。これで俺が剣を使って勝負するのだとブラフをかけてるのだ。
「うあああああっ!」
ほとんど言葉ですらないような叫び声を上げながら、その短剣を俺に向かって突き出す。
「――
「っ!?」
俺が魔術を使った途端、相手が膝から崩れ落ちた。自ら短剣を手放し、地に倒れ伏す。
「その顔を見せてみろ。まぁ、大体検討はついてるけども」
ゆっくりと近寄り、その兜をとる。
「やっぱり。獣人だよな」
「くっ……!」
青く短い髪に猫のような瞳。頭の上からは獣耳が生えている。それなのに顔立ちは整っていて可愛らしい。
そんな彼女は恐怖を見せないように必死に耐えている。それは一目瞭然だと言えるほど。
歯を食いしばり、目の奥には殺意が沸いている。なのに抵抗できない虚しさと死への恐れが伝わってくる。
俺がなぜ獣人だと分かったか。それは獣人には魔術の類が効きづらいからだ。元々魔力もあまり持たない種族である為、察するのは難しくない。
ただ、その分「
「ごめんな、怖がらせてしまって。俺は君を殺すつもりはないんだ。今よりもっと良い扱いをしてやるって約束する。だから少し耳を塞いでてもらえるかな?」
すると彼女はコクコクと頷き、頭の上の耳をペタンと押さえつけた。
不必要な殺生はしたくないし、奴隷になるにはそれ相応の理由があるだろうけれどそんなものどうにでもなる。まだ子どもに見えるし、性格など俺の教育次第で変わるだろう。素直に信じてくれて助かった。
「コミア嬢! こいつは俺に向かって反逆行為をした! 処罰は被害者である俺が決めてもよいな?」
「は、はい! 大変申し訳ございませんでした! お好きにしてくださっても構いません……!」
ペコペコと頭を下げるコミア嬢。さすがに怖がらせすぎただろうか。少し長い茶色の髪が頭を下げすぎてボサボサになってしまっている。
「別に怒っているわけではない。ただ許可が欲しかったのだ。この件は内密にする。その代わり俺は彼女を引き取る。文句はあるまいな?」
「はい! 閣下の関大なる配慮に感謝致しますっ!」
「これからもここは贔屓にさせてもらう。よろしく頼んだ。……あと帰りに魔物討伐の依頼を受けたいのだが、いいか?」
「もちろんです! 今の戦闘データでランクは決定させていただきましたので、受付までお越し下さい。カードの発行手続きがありますので」
「了解だ」
コミア嬢が急ぎ足でこの場を離れたのを見送りつつ、未だ耳をペタンと閉じる獣人の女の子へ話しかける。
「もうやめていいぞ。これで君は安全だ。さて。俺の仲間になる——それでいいか?」
「う、うん……いいのです。ご、ご主人様の仲間になるです」
「嫌なら開放するが……いいのか?」
「ぜ、全然嫌じゃない、です」
「俺の事を殺したいとは思わないのか?」
「獣人は強い者に従う慣習がある、です……それに優しく助けてくれたのです……だから従うです!」
少し恥ずかしがりながら答える姿はとても可愛らしい。これにはなぜ奴隷になったのかが分かってしまうな。
可愛い弱者はこうやって扱われるのが定法なのだ――悲しいことに。こういう搾取も救わねばならないと痛感する。
「ありがとう。俺はエディ。君の名は?」
「アルマの名前はアルマロスなのですっ」
「アルマロス……いい名前だな。これからよろしく」
「よろしく……なのです!」
獣人でも冒険者にはなることができる。彼女の戦闘力の高さを考えれば、非常に心強い仲間が出来たというわけだ。ますます楽しみになってきた――!
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