第6話:冒険者への道

 ジヴリナとの訓練を続けて一週間が過ぎた。それに合わせて外出禁止の期間も終了した。

 ジヴリナからは中級魔術師としてはほぼ完璧だ、というお墨付きを貰ったのもあり、ついに冒険者になることにした。


「エディ様。そろそろ到着でございます」

「ぅ、う~ん……ありがとうセラ。おかげで寝過ごさずに済んだよ」


 今日は天気もよくポカポカ陽気。運動すればすぐに汗をかいてしまうが、馬車で移動するくらいなら日差しの暖かさで微睡むことができる。本当に気持ちがいい。


「ここからはかしこまった口調になります。誠に心苦しいですが」

「俺は普段からもっと礼節を弁えるべきだと思うなー?」

「それは大変失礼致しました。善処できますよう努力することを検討いたします」

「つまりしないんだな。よくわかった。ほら行くぞ」

「あっ、置いていかないでくださいっ……!」


 ふざけたことを言うセラを置いて馬車を降りる。

 そして目の前にそびえ立つ建物を見上げる。


「ここが冒険者ギルド、か……ゲームのまんまだな。ただやっぱりが心なしか装飾が綺麗だな」


 木造三階建ての大きな施設。扉の上には大きな冒険者協会の紋章が激しく主張している。よく見ればこの国の国旗も描かれており、丁寧さには目を見張る物がある。


 さて。ここは冒険者ギルドなわけだが、普通のものとは違うところがある。それは何か。答えは「貴族用」というところだ。

 別に平民が使う方に貴族が入って色々するもの問題はない。しかし騒がしい雰囲気や、粗野な者があまり好みでない貴族のために貴族用の冒険者ギルドが存在している。逆に平民が息苦しいというものあるな。


 ゲームではあまりこちらを使う機会がなかった。主人公ゆうしゃはとある伯爵の養子なのだが、元は平民。あまり堅苦しいのは好きじゃないからと一般用を使っていたのをよく覚えている。


「入るぞ、セラ」

「御意」


 俺が今回こっちを使うのは、「貴族の冒険者登録はノーブル貴族用で行うこと」という協会規則によるものだ。正直オーディナル一般用に行ってみたかったがこればかりは仕方ない。今度行こう。


「ごきげんよう。初めていらっしゃるお方だとお見受けします。爵位とお名前をお伺いしても?」


 中に入ると、真っ先に話しかけてきたのは受付嬢であった。職員の制服もやはり少し豪華に見える。

 というか、彼女の他には誰もいない。まぁ、それもそうか。


「あぁ。俺はジスティア公爵家三男のエブディケートだ。よろしく頼む」

「こちらこそよろしくお願いします閣下。今回は登録ということでよろしいですか?」

「そうだな。何を書けば良い?」

「どういった武術ができるのかを書いていただければ。虚偽は許されませんので悪しからず」

「もちろんだ」


 こんなことで嘘をつくような俺ではない。羽ペンを受け取ると、サラサラと書き進め、書き終わったことを示すように紙を回転させた。


「これでいいか?」

「はい。ジスティア流剣術中伝……その腰の剣をお使いに?」

「そうだ」


 そう言って軽く鞘に触れる。訓練でもたまに使う愛用の私物だ。


「中級魔術師の修了……恐縮ですが、どなたに師事したのかお聞きしても?」

「ジヴリナ・ガーリル伯爵令嬢だ」

「なるほど。問題ありません。ランクを決めさせていただきますので訓練場へどうぞ。案内の者をつけます」

「感謝する」

「それほどでも。……コミア、この方を案内して」

「はいっ! よろしくお願いしますっ!」

「そんなに緊張しなくても良いだろう。こちらこそよろしく頼む」

「は、はひぃ!」


 ……もしかしてギルドは人材不足なのか? まぁ、堅苦しい貴族を相手に事務仕事をしたいなんて酔狂なやつ、あんまりいないか。オーディナルの方は職員も冒険者も多すぎてびっくりするくらいだし。


「こ、ここですっ! まずは魔力の測定から始めますので、この水晶に魔力を送ってください!」

「説明、どうもありがとう」


 しかし……ふむ。権力あってこその英雄になろうとする俺にとってこれは簡単なことだが……加減がわからん。


「エディ様。ジヴリナ嬢から言伝てを預かっております」


 突然耳元に聞こえてきたのはセラの声だった。このタイミングで話しかけるということは、重要なことなのだろうと思い耳を傾ける。


「強くなって魔力が増えたのはいいけど、やりすぎちゃダメだよ? 私みたいに疑う人が絶対出てくるからねっ。お姉ちゃんより。――エディ様、あの人をお姉ちゃんとか言って甘えてるんですか……? キモいですよ」

「だいぶ語弊があるようでなによりだよ。帰ったらお仕置きだな」


 毒を吐くだけならまだしも、ご丁寧にジヴリナの真似までしている。不敬罪だぞ不敬罪。


 しかしジヴリナの言うことも一理あるのだ。実力を認められる下地を作ってからじゃないと、非現実的な嫌疑をかけられることは想像に難くない。本人が言うのだから間違いないだろうな。別に彼女は夢見る少女などではない。貴族として分別が付く立派な令嬢だ。その分説得力が増す。


「魔力を……送る……っ」


 水晶に手を触れ、ゆっくりと魔力を流し込んでいく。

 気を抜けばいつでも膨大な魔力が溢れてしまうため、意味のわからんことを口走りながらでも慎重に抑えなければならない。


「す、すごい……こんなに魔力がある人始めて見た……!」

「そうでしょう? これがジスティア公のご子息であり、我が主であらせられるエブディケート様ですよ。このお方はきっとこれから伝説を作り上げます。その伝説の始まりの一端を目に焼き付けるべきです」

「セラぁ……何を、いってんだっ……!」

「ご主人様。言葉遣いには少し気をつけるべきかと」

「お前が言うなぁ……!」

「あ、あはは……仲良しみたいですね……」


 あのなぁ、あんまり他のことに神経を割けないんだよっ! 意外と難しいんだからなこれ!

 しかしこんな苦行をするのにはもう一つ意味がある。それは魔力を少しずつ出すのはきっといつか使う技術だろう、と訓練の意味も含めているから。でなければこんなことしない。


「あ、はい。それで充分です。ありがとうございます」

「ふぅ……中々疲れるな」

「そうですよね、魔力を使い切ると身体に疲れが溜まりますよね~。マナポーションは持っていますか? ないなら提供致しますが」

「あー、うん。遠慮しておくよ」


 なんだか変な話だ。俺は魔力がなくなるどころか有り余ってるのに。しかも今使った分だってもう再生した。慎重さが必要なければ何回でも同じことをやれるだろう。


「そうですか……。っと、結果が出ました。ランク換算すると――え、Sランク超えっ!?」

「ふふん。そうでしょうね。私の敬愛するエディ様はそれが当然です」

「……まぁいいや。次は何をするんだ? 案内してくれ」

「は、はいっ!」


 セラの自慢は俺もコミア嬢も華麗にスルーした。彼女とは気が合いそうだ。身内にこういう人がいるとしか思えない。


「次はあの的に対し、それぞれに応じた適当な魔術を放って頂きます。制限時間は特にありませんので、ご自由にやって頂いて構いません。魔力が足りないようでしたら、お気軽にお声がけいただければポーションをお渡ししますよ」

「よく理解した。あと一つ質問があるのだが」

「なんなりと」

「……的は壊してしまっても良いのか?」

「あー、そうですね。よくそう聞かれますが、あれは中々壊れない代物でして。不壊の呪いがかかってるなんて噂もあるくらいです」

「なるほど、あれがそうなのか……」


 そこには左から順に赤、青、緑、黄、紫、白、黒と並ぶ七個の巨大な岩があった。確かこれに魔術がぶつかったときのエネルギーで色々測定するんだったか。があとで来るだろうし、ここは一つ善行をしようではないか。

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