第8話 帰って?

 後輩帰ったはずじゃ……。


 「びっくりしましたか?」


 「なんで?帰るって言って……」


 「ちゃんと先輩の顔を見て謝りたくて、戻ってきちゃいました。あっ、あと一回無視した理由を聞きたかったものあります」


 戻ってきちゃいましたって、出来れば私は会いたくなかった。


 私が黙ってると、後輩が尋ねてくる。


 「先輩、髪ボサボサですね。私が髪、梳かしてあげます」


 「いやっっ、いいから!……」

 

 やばっ、自分で思っていよりも強い言葉が出てしまった。感情の整理が出来ていないからだろうか。とりあえず帰るようにお願いする。


 「お願いだから、今日は帰って…」


 「…………」


 後輩から返事がない、怒らせてしまったかな…。

 でも、帰ってくれるならそれでいいと思った。

 

 だが……。


 「…………また、一人で抱え込むんですか?」


 後輩の問いかけで、ゾッと私の体から温度が消える感覚に陥る。


 それは中学の頃の私を言っているのだろう。さっきまでの感覚が嘘のように無くなる。


 私の触れられたくない心の傷。

 私が一番忘れたい事。


 私は顔を下に向けて、後輩の顔を見ないようして話す。


 「こうはいは…私を怒らしたいの?」


 普段ではあり得ない程低い自分の声。それほどまでに今の私は感情が冷え切っている。


 「違います!私は先輩が心配で…」


 「心配?誰のせいでこんなに悩んでいると思ってるの?」


 あー駄目だ。これを言ってはいけない。もう今日はこれ以上話すべきじゃない。


 「誰のせいって……」 


 「ねぇ、こうはい。今日は帰って?」


 少し怒気をはらんだ声で言う。


 後輩が拳を握りしめるのが見える。心配してくれているのは本当だろう、けれど今はいらない。


 「っっ、わかりました。また月曜日に会いましょう。それでは」


 後輩が足早に去っていくのを足音で感じる。少して私は顔を上げる。


 冷え切った気持ちで、スマホを握りしめる。


 今日はもう何もする気になれないな、もう一度寝ようか。


 ドアを開け、鍵をかける。


 部屋に戻ろうと思い歩き出そうとしたところで、私は玄関に座り込んでしまった。


 足がガクガクと震えてる。

 いつまで引きずっているのだろう。もう3年も経つのに。


 深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。3年前は良くあったことだ、対処法は分かっている。どうにか気持ちを落ち着かせ立ち上がり、部屋まで行きベットに転がり込む。


 スマホを枕元にほかる。


 私はまだ、囚われている……中学の頃に起きた事に。


 ……やめよう。考えるのは良くない、もう解決したことだ。


 後輩のことは、明日考えよう。今日はもう…。


 思考を放棄して、目を瞑る。


 程なくして私は意識を手放した。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 次話過去編予定です。

 


 


 


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