第5話 デザートは…
後輩家族と晩御飯を食べ終え、私は後輩と皿洗いをしていた。最初は断られたが、さすがに何もしないというのも居心地が悪いと後輩を説得して手伝っている。
「ふぅ、終わったね」
「ありがとうございます。先輩はもう少しゆっくりしていきますか?」
手を拭きながら後輩が問うてくる。金曜日だし、後輩が良いというならもう少し居ようかな。
「居ていいなら」
「いいですよ!むしろ居てください。まだまだ、先輩と話したいです」
後輩とキッチンからリビングに移動する。ソファに腰かけてテレビに目を向け、最近よく話題に上がるバラエティ番組を見ながら話す。
「わかった。なら、もう少しだけ居させてもらうよ。それよりいいの?渚のお母さん椅子の上で寝てるけど……」
ソファの後ろにあるダイニングのテーブルに突っ伏して寝ている渚母のほうに顔を向けて聞く。
「あ~……今日はいつもより多く飲んでいたからそれが原因でしょう。先輩がいる間は放置のほうがいいです。まさか母さんが、あんなに先輩と仲がいいとは思いませんでした」
「そりゃ何回もお邪魔してるし、そのたびに話すからね」
「なんだか母さんに負けた気分です。やっぱり次からは外に出ててもらおうかな」
「……嫉妬してるのかなぁ?後輩」
「ふふっ、先輩、料理教室はなかったことにしましょうか」
おっと……ニコニコの笑顔で後輩が圧を放っているぞ。これ以上の揶揄いは危険だ、撤退!!即時撤退だ!!
「すみません、調子に乗りました」
「よろしい!…………ところで先輩、食後のデザートいりませんか?」
謝ったご褒美か?後輩がしおらしく聞いてくる。さっきまでと態度の差に風邪をひきそうだ。
「欲しい、どんなの?」
「…………」
後輩から返事がない?視線を向けると、さっきまでと違い顔が俯いている。俯いているせいで表情はよく見えない。急にどうしたのだろうか。
「後輩?大丈夫?」
「…………すっ、すみません。ちょっとボーとしてて、すぐに持ってきますね!」
何だったんだ?体調でも悪いのかな。少し心配になった私は、ソファから立ち上がり後輩の後について行った。
キッチンでは後輩が冷蔵庫からアイスを取り出していた。
「渚、本当に大丈夫?」
「ひゃっ!せっ、先輩。何でついてきて……」
「心配でさ。体調悪いなら安静にしていたほうがいいよ?」
そう声をかけると後輩がスッと立ち上がって、何かぶつぶつ言っている。声が小さくて聞き取れない。
「なに?渚、声小さいよ」
すると後輩が私を突然抱き寄せる。そして私は冷蔵庫側に背中がつくように回された。後輩が腕を離し、私の左頬のすぐ横に右手を置いた。……壁ドンされた。人生初だ。ただただ困惑して渚のほうを見る。
「ちょっ、渚?何して……る」
言い終える前に後輩の顔が近づき、顎を左手で少し上に傾けられる。
「先輩が悪いんですよ…。そうやって誰に対しても優しくして……。こっちの気持ちも考ずに……。だからもう、私のデザートは…………。」
渚の顔がゆっくりと近づいてくる、待って渚、それは…。
抵抗しようと思えば出来たはずだ。私の両腕はフリーに動かせる状態だし、体格差もそこまでない。だが、渚の有無を言わさぬその表情に、私の抵抗の意思はそがれてしまった。
「っっっ///」
ギュウッと目を閉じる。何をされるかは、誰が見てもわかることだろう。後輩の、渚の、吐息が聞こえ肌で感じれる程に近くなる。
…………だが、それ以上近くなることはなく、渚の顔が離れていくのを感じる。それに合わせて私はゆっくりと目を開ける。
悪戯な笑顔でこちらを見ている渚が目の前に立っており、スマホをこちらに向けている。カァーと顔が赤くなるのを感じる。
「なっ、渚。何をして
「先輩のキス待ち顔、撮っちゃいました。可愛いですね先輩?」
スマホの画面をこちらに向け顔の横に、画面には確かに先ほどの私の顔が映っていた。
「//////」
あまりの恥ずかしさに顔を俯ける、だが後輩はそれを許さない。また、顎に手を添えられて渚の顔のほうを向かせられる。
「これまでの意地悪のお返しです。誰かに見せたりすることはないので、安心してくださいね」
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