第4話 後輩の家で
後輩と買い物を済まして、ショッピングモールを出る。まだ日は出ており、夕暮れ時といったくらいだ。買い物袋には、今日のカレーで使う食材と明日の朝ご飯の食パンが入っている。
荷物を持って後輩と並んで帰る。浮足立っているからか来るときよりも足取りは軽い。そのおかげか、かなり早く後輩の家に着けた。
「お邪魔します」「ただいまぁ」
後輩と被ったが挨拶は大切だ。ほどなくしてトコトコと奥から渚のお母さんが出てきた。年齢は知らないが若々しい方で、後輩曰く私のことを気にいっているらしい。
「いらっしゃい燐ちゃん。それと、お帰り渚。お母さん外に出てようか?二人のお邪魔じゃないかしら」
「母さん、変な気使わないでいいから!」
「あらあら、照れ屋ね渚は。そう思わない?燐ちゃん」
「そうですね。渚はそういうところありますよ、そこも可愛いと思います」
「っっっ///」
私も敵だと悟ってか渚は顔を真っ赤にして、足早にリビングに逃げていく。あれも照れ隠しの一種かな?
渚を追うように私と渚母もリビングへ。渚はエプロンをして既にキッチンで鍋の準備をしていた。まだ顔は赤いけど……とりあえずは落ち着いたみたいだ。
「渚手伝うよ。渚ほど料理は得意じゃないけど」
「いえっっ、先輩はテレビでも見ていてください。それか母さんの相手をお願いします。」
後輩が顔を背けて拒絶の意を示してきた。
「なんで?私邪魔かな?」
「そういうわけではなくて……あのっ、今、先輩のこと、直視できなくて……//」
また、顔を赤くしながら後輩が拒絶の理由を言ってくれた。ははーん、そういうことか。少し意地悪しようかな。
「そっか、後輩は私のこと嫌いなんだ?悲しな先輩は」
バッと後輩が真っ赤な顔をこちらに向けてくる。目がグルグルして潤んでいるし、耳まで赤く染まっている。
「ちがっ、違います、先輩のこと嫌いになんてっ」
「え~?じゃあなんでいつもは許可してくれるのに、今日はダメなのかな?」
「あっ、あのっ、せっ、先輩に可愛いって言われて嬉しくて、そのっ、きょっ、今日は勘弁してください!!」
あわあわしている姿が可愛くて意地悪を続けたくなるが、意地悪しすぎていじけられると、今日のカレーを抜きにされる可能性があるのでやめることにした。
「そう、わかった。じゃぁ出来上がるの楽しみ待ってるよ」
「はい///」
プシューという音と共に後輩の頭から湯気が出ていそうな顔だなと思いながら、私はキッチンから離れた。
渚母とテレビを見ながら会話をしていると、キッチンのほうから声がかかった。
「できましたよ。ご飯よそいに来てください。あっ、母さんは机の準備お願い」
「はいはい」
渚母はそう返事をしてコップやらの食器をテーブルに並べていく。私は後輩に呼ばれた通りにキッチンに言って、炊き立ての白米をよそう。
「どう?いい感じカレーは」
「はい、いつもと変わらずですけど」
「それがいいんだよ。はい、カレー多めでお願い」
鍋の前に後輩に皿を渡してカレーをかけてもらう。私はご飯とカレーが一対一だとカレーが余るタイプなので、基本ご飯よりカレーを多めにする。
「ほい、じゃあ私のも」
私の横から手が出てきて、ご飯の乗った皿を渚に渡した。いつの間にか食器準備を終えた渚母が来ていた。
「はいはい、母さんもカレー多め?」
「そうね」
私と渚母が座った後に渚も来て私の隣に座った。
「「「いただきます」」」
今日の晩御飯はカレーとサラダだ。とてもシンプルだが後輩が作ると味がよくなる。なんでだ?私が作るカレーと何処が違うのだろうか。
「どうですか、先輩」
「美味しいよ。さすが渚だね、いいお嫁さんになるよ」
「えっっ?」
「ん?」
何かおかしいことを言ったか?私。
「いっ、いえすみません。誉め言葉ですよね?」
「そうだよ。あっ、そうだ!今度私に教えてよ。料理」
後輩と同じ作り方をすればこの味を再現できるはずだ。家で作るご飯が美味しくなれば、私の自炊回数が増えるはず。
「いいわね。料理教室やろう渚」
「なんで母さんが乗り気なの?……私は先輩に教えるなら先輩の家のほうがいいと思うけど」
「うーん……それもそうね。使い慣れている器具のほうがいいと思うし」
「ということで先輩がよければ、先輩の家でやりましょう!」
「それは構わないけど。私のいえ調味料とか器具とか最低限しかないよ?」
料理自体を最低限で済ましているので、後輩の家に置いてあるようなものがあるとは思えない。
「それならそれで出来る料理もあるので大丈夫です。あとは……いつにするかですね」
「いつでも大丈夫だよ、後輩の予定が空いた時に来て」
なんやかんやで予定を決め、料理教室の話から学校の話へと話題がシフトチェンジしていき、話しながらのんびりカレーを食べ進めていく。渚母は途中でお酒が入りだして、笑い上戸になっていた。そんないつもとは正反対の賑やかな夜に私は何故か心をチクチクと刺されたような気分になった。
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