第1話 後輩と私の日常
今日の六限が終わった。教科書類を鞄に入れて、チャックを閉める。椅子から立ち上がり、教室から出て校門に足を進める。
「渚、もういるかな」
後輩の名前を呟きながら廊下を歩く。渚は今年入ってきた後輩で、中学から私のことを知っていたらしく入学式の時に話したことをきっかけに仲良くなった。
最近、帰る方向が同じことを知って二人で帰るようになった。もちろん毎日というわけではない。お互いの予定がないときに限るが、帰るときに話し相手がいるのは結構楽しいものだ。
どうして一年間も私は一人悲しく帰っていたのだろうか。友達はいたが、皆帰る方向が固まっていて私だけ仲間外れだったからな。仕方がなかった。うん。
だが、今は違う。私には後輩がいるのだから。
「せんぱーい。こっちです。こっち」
指先しか見えないが、渚が手を振っている。渚は小柄だからな。手を挙げても男子の背で隠れてしまっている。
靴を変え、渚の近くに行く。
「ごめん。待ったよね」
「いえ、私も先ほど来たばかりです。さぁ、帰りましょうか先輩」
「そうだね。今日はこれから雨降るらしいし、急ごうか」
天気はまだ曇っているだけだが、風が強く、いつ降り出してもおかしくない。
夕方からと天気予報は言っていたがこの雲を見ると、そこまで持つか分からない。
「そうでした。急ぎましょう、先輩」
後輩と並んで急ぎ足で校門を出る。見慣れた風景がいつもより少しだけ早いペースで流れていく。信号で足を止め、後輩のほうを向く。
「もう、学校には慣れた?」
「一か月たちましたから、ある程度は慣れたと思います。でも校舎が広くてたまに迷いますけど」
「広いよね、うちの校舎。私もよく迷ったなぁ」
懐かしいな、入学してから何度迷ったか。友達と一緒に探検みたいだねって話しながら授業に遅れたこともあったなぁ。あの時は先生も笑ってたっけ。
しみじみとしていると信号が青に変わった。
「先輩、行きますよ?」
「あぁ。うん。行こうか。」
「ボーとしてどうしたんですか。何か悩み事ですか」
「いいや。私が一年だった時を思い出してさ……」
機嫌の悪い空を見ながら私は後輩と並んで歩く。来年もこんな風に日々を過ごしたいと思いながら。
★
学校から家まで大体十五分くらいだ。後輩と話していたらあっという間に帰ってきた。後輩は私の家から少しだけ離れたところに住んでいる。いつもは後輩を家まで送ってから帰っているが今日は後輩に断られた。
「本当にいいの?ちょっとの距離だし全然送るよ」
「いえ。雨が降って来て先輩が濡れてしまうのは申し訳ないですから」
さっきまで感じなかった雨の匂いがするから、こっちに気を使ってくれいるのだろう。
「そう、ならそうする。気を付けてね」
「はい。また明日、先輩」
「うん。また明日」
お互い手を振り終えると、後輩が背を向けて歩いていく。少し心配だったので後輩の姿が見えなくなるまで見送ってから家に入った。
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