ヘイ、ハイ、ライ

 太ももの感触を肌で感じて「気持ちがいいなぁ」なんて感想を抱いている自分は、本当に欲望に塗れているなと思う。


「どう、気持ちいい?」


 心が読まれて僕は一瞬動揺する。それは太ももを伝わって彼女に伝達される。

 にまにまとした笑みで僕の頬をつつく。


「もう嫌だ。早く起き上がらせてくれ」


「だーめ、疲れてるもん。休まなくちゃ」


 夕は僕の髪をゆっくりと撫でる。夕方の校舎ほどセンチメンタルになるものはないはずなのに、今はそんな感情は浮かばない。なんとかごまかしたくて話題を夕に振る。


「遊柚と卓也はどこ行ったの」


「飲み物買いに行ったよ。伊織が貧血で倒れちゃったんだもん」


 ダメだな。昨日ちゃんと寝たはずなんだけど。僕は起き上がろうと手を掛ける。

 この時意識が朦朧としていたからか、禁域に触れてしまった。


「あっ、」


「ちょ、伊織それは」


「ごめんごめん!」


 謝ろうとして体勢が崩れて僕が膝から落ちそうになるのを夕が腕を伸ばして体が縺れる。物音と共に、僕は夕に押し倒される体制になった。神はタイミングを考えているので、こういう時に限って扉は開かれる。


「おーい大丈夫かー、ってお前ら何してんだよ」


「強姦だね」


「「違う!」」


「まぁとりあえずこれ。これ飲めよ、水分補給しとけって」


「あ、ありがと」


 卓也から飲み物を貰って一気に呷る。なんかたぶん視界が開けた気がする。

 部屋には色々とものが散乱している。


 僕らは今日、部活を作ろうと模索していた。していただけで勝手に空き教室を占拠しているだけだ。掃除をして、隣の空き教室にあった黒幕で廊下側の窓を隠して秘密基地感が増していたところで僕が倒れてしまったんだ。


 どこかに行く予定は残念ながら決まっていない。というか僕の指導も空しく夕は補修行きとなってしまった(卓也は言うまでもない)。ということで色々あって部室作ろう!って空き教室を徘徊していたのだ。


「そろそろ下校時刻だね」


「帰るか。というか俺と夕は明日の補修に備えないとさすがにヤバい」


「あ、完全に忘れてた!」


「お前が一番忘れちゃダメだろ」


 呆れを通り越して笑みが浮かんでくる。遊柚はそんな二人を眺めながら微笑んでいた。荷物を片付けて教室を閉じる。


 この学校は空き教室が多すぎるので、窓が黒くても別に目立ってない。自転車置き場まで向かって荷物をかごに入れる。遊柚だけは歩きだからみんなが準備するのを待っていた。


「じゃあ、また明日」


「さよなら」「夕、頑張るぞ」「もちろん!」


 そうしてみんなと別れて夕と二人になる。並走しても案外補導されることはない。

 夕は何か言いたげにこちらを見ている。


「どしたの」


「いや、、私が意識しすぎなだけ?」


「……あぁ、さっきの」


「「…………」」


 意識させるようなことを言われたせいで気まずくなっちゃったじゃん。

 頬の紅潮を触ってもいないのに感じた。夕を見ると、夕焼けが反射して顔が赤いのかは分からない。


「補修は大丈夫そうなのか。終わらないとみんなで行く予定が立てられないぞ」


「それなら安心して。さすがに二回目ともなったらいけるから!」


「不安だ」


「じゃあ、もう少しだけ聞きたいとこあるからちょっとだけ伊織の家に寄っていい?」


「やっぱあるじゃんか。いいよ、いくらでも教えるよ」


「ほんとにありがと!」


 僕と夕は家のリビングで日が暮れて夕飯時になるまで勉強をした。幸い、家と夕の家は付き合いが長いので家の電話に夕の母親がかけてくるまで彼女は心置きなく勉強ができた。



「これでよし」


 同刻、遊柚は電気を消した部屋で何枚ものモニターとにらめっこをして、小さくつぶやいた。カバンが静かに揺れる。誰にも気づかれないままに。

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群青に堕ちて 日朝 柳 @5234

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