剥がれた仮面、落ちないように
「ほんとに?」
「これは間違いないよ。私が直に確認してるから」
何を確認したら分かるんだろうか、と聞くのは野暮なので聞かないことにする。それよりも夕が罹患者とは一体どういうことなんだ。
「それを僕に教えてどうするの?」
「そりゃあ、治すんだよ」
「どうやって?」
あんな若干都市伝説じみたものが実際にあると言うだけでも驚きなのに、それを治せだなんてあまりにも話が飛躍している。
「そんなに疑らないでよ。もちろんただ治せなんて言わないから」
彼女は携帯をスワイプさせると、僕の座る席に置く。そこには年代と塗り潰しされた氏名、そしてブルーシンドロームの症状が記されていた。
「これが私が今まで見てきたブルーシンドロームの患者たち。割と実績はある方だと自負してるんだけどね」
確かにこれだけの人数を実際に治したというなら信頼に値するかもしれない。だけど、そもそも僕はこの病を信じちゃいないんだ。
そんなものを気にかけている必要があるのかと考えていると、遊柚は人差し指を立てて口に当てる。静かにしていてということらしい。
音に耳を傾けていると、静かにこちらに向かってくる足音がする。この通りはほとんどが空き教室で、生徒はおろか先生すら稀にしか訪れることがない。
なのに廊下を歩いているというのは一体誰なのか。これまでの経験からすれば、それが誰なのかは言うまでもなかった。
コンコン。
「ほらね」
遊柚は鍵を開く。扉が外から開いて顔を覗かせたのは、夕だった。
「夕.........」
彼女は一瞬僕の顔を見て、直ぐに扉のまえにいた遊柚に視線を変える。崩れるように彼女の表情には余裕が無くなって、「そういうこと」と呟くと勢いよく扉を閉めて廊下を走っていってしまう。
「待ってよ夕!」
既に彼女の姿は廊下にはなく遊柚は焦りを見せた。伊織が扉に手をかけて立ち尽くしているのを見て、彼女はまたゆっくりと椅子に座る。
「伊織」
「なんだよ!」
「.........伊織、今は怒ってある場合じゃない。私が企んでいることがバレてしまったならやるしかないんだ。君だって夕を助けたいんだよね?」
どちらにせよ、暫く彼女と会話を交わすのは難しい気がした。だから僕は彼女に向かい合うように椅子に座る。
「分かった。何をすればいいんだ」
「やっと信じてくれた。でもね、この病は一筋縄じゃどうにもならない。だから思春期だけの一時の思い過ごしとして扱われる。まずは、“普通”に過ごせばいい。そうすればきっと伊織なら気づくはずだよ」
「はぁ」
彼女だって真剣に話しているはずだ。疑っていたら何も始まらないのはその通りだし。なにより、夕にあんな顔をさせてしまったのが悲しかった。
「じゃあ、教室に戻ろうか。これ以上ここにいても進展はしないし」
僕と遊柚は授業中ながら教室へ戻った。そこに夕の姿はなく、ただ二人はこっぴどく叱られた。
席に着くと、卓也が前を向きながら僕に聞く。
「何があったんだ?三人ともいなくなって俺ふつうに不安だったんだぞ」
と聞かれて遊柚を見るが、静かに首を振る。さっき教室を戻るときにも言われたが、あまり他人には言及しないでほしいとのことだった。それは友達である卓也でさえも例外ではないらしい。
「いいや。ちょっと計画を練ってたらチャイムが鳴ったから、考えれるとこまで考えて戻ってきたんだよ」
「計画ってなんだ?」
「そりゃあ……四人で遊ぶ計画に決まってるだろ」
二人で話をしていると、前に立っている教師に静かに睨まれた。これ以上悪目立ちするのは避けたいので潔く板書に集中する。隣の遊柚は知らないよみたいな顔をしているけど、即興でやり過ごしたことを褒めてほしかった。
その後授業が終わると再び先生に呼び出され、放課後はすべて反省文を書くのに使った。容赦なさ過ぎて左手が死んだ。
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