You're the lonely

 4人組の中で、僕と夕だけは昔からの幼なじみという間柄だった。


 卓也は中学の時、そして遊柚は高校に入ってから友達になったけれど夕は生まれてから一緒と言っても過言では無い。なんせ生まれた病院も同じで、日にちすら同じだから。


「行ってきます」


 僕は毎日一言添えてから家を出ることにしている。鍵を閉めて庭を見た時、夏が近づいてきたからなのか雑草がかなり伸びていることに気がつく。


 帰ったら物置から芝刈り機を出すかな。


 そんなことを考えながら学校への道のりを歩いていると後ろから肩を叩かれる。


「おはよう、伊織」


「おはよう.........ってなんだよ、僕の顔になんか付いてる?」


「いいや、なんでもないよ」


 あれから数日、遊柚の言っていることが分からないまま時間だけがすぎていき心のモヤモヤがずっと晴れないでいる。


 何より遊柚の態度がいつもと変わることもないから変化を捉えることが出来ない。これ以上放置されたらテスト期間に入って聞くタイミングを失う。それだけは嫌だった。


 絶対今日こそは遊柚に問い詰めてやる。


 そう意気込んでいたのを彼女に見抜かれたのだろうか。だから僕は昨日見たアニメの話を彼女にすることにした。


「おはよう、遊柚」


「おはよう」


 今日もいつも通りなんてことの無い挨拶をして席に着く彼女。僕は手にしていた携帯から一通の連絡を入れる。


 もちろん彼女の携帯は小刻みに震えて、荷物を机に入れ終わると初めてそれを開いて内容に目を通した。


「こっち」


「えっ?ちょっ、」


 僕は半ば強引に腕を引っ張られながら教室を出ていく。夕や卓也はもちろん、他の生徒もその光景を口をあんぐりさせて見ていた。


 空き教室まで連れていかれて彼女は鍵を閉める。積もった埃が舞って二人は咳き込んだ。


 窓を開けながら、口に手を当てて埃を払い席に座る彼女に僕は尋ねた。


「こないだの言葉の意味を教えてくれない?結局僕じゃ全く意味がわからなくてさ」


 もちろん彼女はそれを答えるつもりでここに連れてきたんだろうけど念の為伝える。だけど、彼女はいつもと変わらない表情で僕を見つめる。しばらくしてやっと口を開いた。


「やっぱり、何も分かってないみたいだね」


 呆れにも似た声色。落胆した様子はひしひしと伝わってくる。だけど勝手に期待されていた僕は一体なんなのか。そもそも何を期待されていたのかすら分からない僕に向けられたその感情は、逆に僕の怒りを買った。


「遊柚、それはどういう意味?何も教えてくれなかったのにその言い草は酷いんじゃない?」


「だから、それに私はガッカリしてるんだよ」


 いつまで経っても核心に触れない会話をする彼女に嫌気がさして、僕はつい彼女の手を掴んで壁に押し付けてしまう。


「それでイライラしたら暴力を振るうの?」


「.........ごめん」


 僕は彼女の腕を握っていた力を緩めて離す。頭に血が登りすぎていたみたいだ。僕は窓の外に顔を出して一度深呼吸をした。


 チャイムが鳴って静かに教室に響く。その音が消え入る頃には心も体も落ち着いていた。


「伊織が怒るのも無理ないのは分かってる。だけど、試しておく必要があったんだ。私には忠告することしか出来ないから」


「自分的には期待外れもいいとこだったと思うけど、遊柚から見たらどうだったの?」


「うーん、まぁ控えめに言って0点かな」


 思っていた以上に遊柚は辛辣だった。僕はガクりと頭を下げて椅子に座る。何かわからなくても0点はさすがに落ち込むかな。


「伊織はブルーシンドロームって知ってる?」


「知ってるよ。思春期にしか現れないコンプレックスが現実に作用する病でしょ?」


「そう、通称『青に至る病』。夕はその罹患者だ」


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