19-5

 メロディーが途切れ、しんと静まり返った。


 と思ったら、また緩やかな曲調に変わる。昔からこの国に伝わる子守唄のような曲だ。

 ホッとしたようにアーニーたちの顔が緩む。


 そうして大きな拍手の中、ノアの演奏は終了した。

 流れるように一礼するノアもまた美しくて、ここが酒場だったらかなりの投げ銭が飛んだだろう。


 取り囲むアーニーたちへにこやかに手を振って、竪琴を抱えたまま俺の傍にやって来た。


「お楽しみいただけましたか? フレディ」

「最高だったよ。アーニーたちも喜んでるし、俺の好きな曲もやってくれてありがとな。……ただ、途中やたらと重い曲やってただろ」

「ちょっと攻めすぎましたかね。あまり人前ではやらない曲なんです。ウケが悪くて」


 いたずらがバレたように笑う。


 それならなんで今日やったんだよ、と思ったが口には出さなかった。

 わざわざこれを選んだことに、何か意味があるのかもしれない。


「ノアくん、素晴らしかったよ」


 兄さんが手を叩きながらやってきた。どうやら印象は悪くなかったようだ。


「お褒めに預かり光栄です。レインジア子爵」

「歌や楽器の音色は人の心を癒す。フレディが元気になった理由がわかったよ。君のおかげだね」

「滅相もありません。私こそ、フレデリック様にご拝聴いただき心から救われております。もし、少しでもフレデリック様のお役に立てたのであれば、吟遊詩人としてこの上ない喜びにございます」


 吟遊詩人として、か。それは当然だ。

 でも胸に引っかかるのは何故だろうか。


「まだまだパーティーは続く。どうか身構えず、ゆっくりしていってほしい。もし君が良ければ、今日は屋敷で休んでいくといい。歓迎するよ」

「いえ、そこまでして頂くわけには――」


 言い終わる前に、兄さんはノーマンにゲストルームの手配を頼みに行ってしまった。

 戸惑っているノアの肩に、ぽんと手を置く。


「せっかく兄さんがああ言ってくれてるんだ。一泊くらいしていけよ」

「とても有り難いことですが……」

「なんだよ、浮かない顔して。そんなに嫌だったのか?」

「いえ、婿入り前のフレディと一晩ベッドを共にするなんて……」


 ノアが大げさに胸を掻き抱き、頬を染めている。

 ふざけてんだろ、こいつ。


「誰が同じベッドで寝るか! ノアにはゲストルーム用意してるから。というか、そもそもお前俺に、あんなこと……」


 あの日の夜のことを思い出しただけで、身体が熱くなる。

 にやりと口の端に笑みを浮かべて、ノアが顔を寄せた。


「あんなことって、どんなことでしたっけ?」

「あ……あんなことはそんなことだ! 覚えてんだろ! 言わせんな!」

「そのピュアな反応、私の汚れた心が洗われます。いつまでもそのままでいてくださいね、フレディ」

「お前……」


 バン! と、激しい音が部屋に響き渡った。

 一瞬にして部屋中の空気が凍る。


 勢いよく開かれた扉。

 現れた人影は――


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