19-1.誕生日


 それから一週間、使用人たち総出でパーティーの準備が進められた。

 みんなワクワクしてるのが見て取れて、屋敷が一気に明るくなったような気がする。

 

 様子を見に行くと「フレデリック様は主役なんですから!」と追い出された。仲間に入れてほしかったんだが、まあ仕方がない。


 思えば前世のときから、誕生日会など開いてもらったことがなかった。子供の頃は母親が祝ってくれたし、別に不満があったわけじゃない。

 

 フレデリックとしても幼少期には家族に祝ってもらった。

 あの頃は父上も母上もいて、アレク兄上も厳しいけど頭ごなしに怒ったりはしなくて、リュシアン兄さんはよく一緒に遊んでくれて……


 やめにしよう。誕生日前に鬱になってどうする。

 当日を楽しみに待つのが、俺の役目だ。



 そして、一週間が過ぎ――


「お誕生日おめでとうございます!」


 ノーマンに連れられて屋敷の大広間に入ると、使用人たちが声を揃えて出迎えてくれた。

 ダンスパーティーも開けるような広間には煌びやかな装飾品が飾られ、絶対に食べきれないであろうご馳走の数々が並べられていた。


 天井近くには横断幕のようなものが掲げられ、こちらの言葉で『フレデリック様! 19歳のお誕生日おめでとうございます!』と書かれていた。

 ここだけやたらと庶民的だ。小学校のお楽しみ会を思い出す。


「少々幼稚だと思ったのですが、アーニーがどうしても用意したいと聞かず……」


 横断幕を見上げる俺に、ノーマンが囁いた。

 見ると、アーニーが期待半分不安半分の目で俺を窺っている。これを一生懸命用意してくれているアーニーを想像すると、微笑ましくなった。


「ちょっと照れるけど、誕生日!って感じで盛り上がるな。ありがとう、アーニー」

「はいっ! 喜んでいただけて嬉しいです!」


 ぴょんぴょん跳ねるアーニーを、他のメイドたちが良かったねと囲んでいる。

 何もしていないのに、俺の方が嬉しくなる。


「おめでとう、フレディ」


 花束を持って、リュシアン兄さんがやって来た。


 深みのある青い花が散りばめられた花束。柑橘系のような、それでいて深い香りがする。


 うちの勲章に使われている花だ。本来は成人したときや、何かを成し遂げた祝いのときに送られる。

 まだこれを受け取る資格は俺にないとは思うが、兄さんの好意を無駄にはできない。


「ありがとう、兄さん」

「この1年はきっとフレディにとって、とても意味のある年になると思うよ」


 そうだろうか。でも引きこもりを脱却し、ノアと出会えた段階で今までとは違う人生になってきたとは思う。


「さあ、誕生日の挨拶を。みんなフレディの言葉を待っているよ」


 兄さんに促されて、花束を持ったまま皆の前に進み出る。

 

 集まってくれた十数人の使用人たちを見まわした。

 これだけの人数の前で喋るなんて初めてかもしれない。偉くなったと錯覚してしまいそうだ。


 さっきまでいたノーマンンの姿が見えないが、何か仕事をしているんだろう。こんなときまで大変だ。後で礼を言わなければ。


「今日は俺のためにありがとう。こんな盛大に祝ってくれて、すごく嬉しいよ。俺の誕生日ではあるけど、久しぶりのパーティーだ。みんな存分に楽しんでほしい」


 ワッと盛大な拍手が沸き上がる。まさか俺が拍手を受けることになるなんて。

 こんな俺のためにもったいなすぎる。胸に染み入るってのは、こういう感覚か。


 と、ノーマンが部屋に入ってくるのが見えた。まっすぐ兄さんの傍に行き、何かを耳打ちしている。


 兄さんは頷くと、俺に向かって笑いかけた。

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