19-2

「フレディ、お友達が来たようだよ」


 お通しして、と兄さんが伝えると、ノーマンは部屋を出て行った。

 いよいよノアがやってくる。なんか緊張してきた。


 兄さんをチラリと見上げると、どこか楽しそうだ。

 ものすごく期待されてる気がする。ハードルが上がってるが、本当にノアを受け入れてくれるだろうか。今になって不安になる。


 やっぱり、先に吟遊詩人だと伝えた方がいいかもしれない。


「兄さん、あのさ……」


 そのとき、一瞬にして部屋の雰囲気が変わった。

 アーニーたちが息を飲み、色めき立つ空気が伝わる。


「本日はお招きいただき、身に余る光栄にございます。レインジア子爵」


 ノアが胸に手を当て、恭しく兄さんに一礼した。


 レインジア子爵は兄さんの爵位名だ。ちなみにアレク兄上はアズレウス伯爵。そして俺はロレンティア男爵だったりする。

 父上が律儀に3つも爵位を持っていたお陰で、仲良く3人に分配されている。


 ノアの出で立ちは兄さんを前にしても霞むことはなかった。

 大切に育てられた貴族の末裔と言われても信じてしまう。その日暮らしの旅芸人にはとても見えない。酒場の中では浮いていた煌びやかなローブマントも、ここでは馴染んでいる。


「ノア・シャレードと申します」


 その声にハッと我に返り、2人の間に入る。


「兄さん、ノアは吟遊詩人をしてるんだ。最近よく俺も聞きに行ってるんだけど、ノアの竪琴と歌は本当にキレイで」


 驚きもせず、兄さんは微笑んで頷いた。


「ノアくん、いつもフレディと仲良くしてくれているようだね。ありがとう。来てくれて嬉しいよ」

「フレデリック様は私のような者にも、慈悲深くお心遣いくださっています。大変畏れ多いことでございます」


 俺に向けられた言葉ではないが、めちゃくちゃ他人行儀なことにむず痒くなる。


 兄さんが、ノアの持つケースに視線を移した。


「今日はキミの竪琴と歌を聴かせてもらえるのかな」

「お許しいただけるのであれば、フレデリック様のお祝いに1曲奏でさせていただきます」


 良かった。兄さんには好感触だ。

 兄さんが離れたのを見て、ノアに近づく。


「来てくれてありがとう、ノア」

「お招きいただいたのですから当然でございます。フレデリック様」

「俺相手にその話し方やめろよ。普通に喋ってくれ」

「それは助かります。慣れないことをするのは気疲れしますね」


 正直すぎるだろう。


 ふとみれば、アーニーたちがこちらを気にしている。お目当てはもちろんノアだ。

 気づいたノアがにこりと笑顔を向ければ、さすがにキャー! とは言わないまでも、みんな顔を赤くしている。


「みんな噂の吟遊詩人に会えるのを楽しみにしてたんだ。広場でやってるような、女子が喜ぶ流行歌をやってほしい」

「ですが、今日はフレディの誕生日でしょう。あなたの好きな曲を歌いたいのですが」

「俺はノアの曲は全部好きだぞ」

「嬉しいことを言ってくださいますね」

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