17-2

 そういえば、もうすぐ俺の19回目の誕生日だ。自分でも忘れていた。


「いいよ、そんな。もう成人してるんだし、パーティーなんて」

「しかし、昨年の成人の祝いもしていないじゃないか。せっかくフレディも元気になったのだから、今年は祝わせてほしいんだ」


 元気になった……兄さんの目から見てもそう思うのか。


 この世界で貴族は16歳になったら社交界デビュー、18歳で成人を迎えることになっている。

 

 特に成人の祝いは、自宅に大勢貴族を招いて盛大なパーティーをすることが一般的だ。

 しかし、俺はどちらもスルーしてきた。引きこもり真っただ中で部屋から出ることすらなかったのに、パーティーなんて無理に決まっている。


 昨年は扉の外から兄さんが「おめでとう」と声を掛けてくれたような記憶はある。

 でも何も成し遂げられず、何の希望もなく、18年間ただ生きてきただけで祝われる権利はないと思っていた。


 押し黙った俺を見て、兄さんが落ち着いた声で言う。


「盛大なパーティーをしようと言っているんじゃないよ。私と兄上、ノーマンやアーニーたちもフレディと一緒に過ごしたいんだ。みんなフレディをお祝いしたいと思っているんだよ」


 みんな、かどうかはわからない。特に兄上は。


 でも、アーニーたちは俺の引きこもり脱却を手助けしてくれた。ノーマンも泣いて喜んでくれた。

 誕生日は親に感謝する日でもあるなんて聞いたことがある。俺に既に両親はいないが、みんなに感謝を伝える良い機会かもしれない。


「わかった」


 そう答えると、兄さんの顔がパッと華やいだ。イケメンが更に輝いて見える。


「良かった! フレディの誕生日パーティーを開こう!」


 兄さんが扉に向かってそう言うと、アーニーたちが一斉に入ってきた。

 ずっと聞いてたのか!?

 

「フレデリック様! とびっきりのお誕生日会に致しますね。楽しみに待っていてください」

「坊ちゃまの誕生日会……幼き日のことを思い出しますね。私の目の黒いうちにまたお祝いできるなんて、大変に幸せでございます」


 今感動するのは気が早すぎるぞノーマン。

 俺を置いてけぼりにして、みんな楽しそうにパーティーの相談をし始めている。

 

 考えてみれば、鬱々とした俺とハデなことを好まない兄上が住むこの屋敷で、パーティーなんて何年も開いていない。

 今まで苦労掛けた分も、みんなには楽しんでもらいたい。


「フレディ、パーティーにはお友達も呼ぶといい」


 お友達?

 まったく、兄さんはいつまでも俺を子ども扱いだ。

 

「俺に友達なんて……」

「最近仲良くしている友達がいるんじゃないのかい?」


 言葉に含みを感じる。まさか、ノアのことバレてるのか?

 兄さんの青緑の瞳は、なんでもお見通しな気がする。それなら――


「……どんなヤツでも、いい?」

「もちろん。フレディの友達なら、どんな子でも大歓迎だよ」


 ノアは果たして友達なんだろうか。

 

 でも兄さんにノアの歌声を聞いてほしいとは思う。

 アーニーたちも吟遊詩人を噂していたし、来たら喜ぶかもしれない。


 頼んでみるか。

 

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