17-1.パーティー
あれから数日。
ノアを別の宿に強制移動させると、食事もまともに食べてくれるようになった。
あの男や他の太客から襲われることもなく、ようやくひと安心だ。
引き続き、ノアは広場やカフェなどで歌い続けている。
今日は久しぶりの雨。たまには休みにすることになった。
暇になった俺は、自室のソファに寝転んでリュシアン兄さんから借りた本を読む。
ラノベに比べれば文体は硬いが、魔法使いや精霊が出てくるファンタジーはとっつきやすい。
こっちの世界に魔法使いは実在するからか、なんとなく描写がリアルな気がする。とはいえ結構レアな存在だから、本物の魔法使いを見たことはないが。
吟遊詩人が出てくる話もあった。
この世の者とは思えない儚く美しい姿と声を持っていると書かれている。挿絵はないが、どれだけ美しくてもノアには敵わないだろう。
前の世界で例えるならば児童文学のような本の数々。おもしろかったが、これを兄さんが読んでいるなんて。結構かわいいところがあるんだな。
確かに、これがアレク兄上に見つかったら確実に捨てられる。
――と、部屋がノックされた。
本から目を離さず「どうぞー」と返事をすると、扉が開いた。
「おや、それは私が貸した本だね。おもしろいかい?」
その声に慌てて飛び起きた。
目の前には、優しく微笑むリュシアン兄さんが。
「兄さん! 来てたのかよ!」
「ああ、フレディの顔を見たくなってね」
一緒に食事をした日から、兄さんは今まで以上に屋敷に戻って来るようになった。
同じ屋敷に住んでるはずの兄上より、よっぽど帰って来る。兄上の場合は、帰って来たら俺が逃げてるから余計に会わないんだが。
「俺が言うことじゃないけど、仕事は大丈夫なのか?」
「平気だよ。時間なんて、作ればいくらでもあるからね」
けして暇なわけではなく、わざわざ俺のために時間を割いてくれているらしい。
どうしてそこまで……
兄さんはソファに腰かけ、棒立ちになっている俺を見上げた。
何か話があるようだ。ちょっと躊躇いつつも、その横に座る。
兄さんの顔をこんなに近くで見るのは、子供の頃以来かもしれない。
エメラルドグリーンの双眸に俺が映っているのが見えた。
美形はノアで慣れてるつもりだったが、兄さんもまた違うベクトルの美形だ。なんか緊張する。
「来週はフレディの誕生日だね。誕生日パーティーを開こうと思っているんだが、どうだろう?」
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