第10話 必ず報いを…(魁戸side)

魁戸Side


翔太はソファーで眠りについていた。先程俺に対して放った問は俺の事を悩ませていた。と言っても回答が変わる訳では無いのだが…



「どうして頭痛が一向に収まらないんだ?鎮痛薬は一応もらったし、本当にひどくなったら連絡をしてもいいって言ってたから、大丈夫だとは思うんだが…心配だな。」



付き合いが長いからこそ、少しの体調の変化にも敏感になっているのだろう。翔太が今どれほど苦しんでいるのか…その全てを俺が把握したり理解することは出来ないけど、軽減することは出来る。



「それと…こっちもこっちで問題だな。」



俺は手元に揃えた資料に頭を悩ませていた。眼の前の資料には、渡してしまったと慰謝料の金額についての概要と、渡した相手に関する情報だ。情報量的には後者の方が多い。



「慰謝料は…相場よりも高いな。ろくに調べもせずにやったのが丸わかりだ。それに…相手も相手だな。」



慰謝料を渡してしまった以上、表面上は事件が解決してしまったと言っても過言ではないだろう。これ以上何か言及されることは少なくなるだろうけど、翔太にとってはつらい時間になってしまう。



「…まずは情報収集だ。とりあえず相手の所に行ってみるか。」



俺は廊下を通って、玄関に出た。すぐに車に乗り込んで、目的地へと走らせた。目的地は意外と近いため、歩いて行こうと思えば行ける距離だ。だが、今回は偵察だ。相手の生活パターンを把握しておかないといけない。



住所を辿っていくと、マンションが見えた。おそらくここに対象がいるのだろう。



「ふぅ…車をマンションの前に止めれたし、用意してきたやつを設置するか。」



俺が用意してきたのは、警察が監視をするときのような装備だ。望遠鏡やらも全部揃えておいた。数十分…数時間と経ち、そろそろ俺も眠くなってきた頃…1人の女が出てきた。



「あいつだな。こんな時間に外に出るって言うことは…スーパーにでも行くのか?」



現在時刻は16:30…買い物に行って食事を準備し始める時間と言っても差し支えないだろう。



警戒してみていたが、外に出てきたのはタバコを吸うためだったようだ。比較的珍しいタバコを吸っているようで、タバコを吸ったことがない俺には銘柄は分からなかった。



だが珍しいものを含め、タバコは総じて高い傾向にあるのは知っている。そんな物を買っているということは…



「…さっそく金を使ったんだな。」



俺はため息を付きながらも、不思議とがっかりはしなかった。翔太に全権を委任されている以上手を抜く訳にはいかない。しっかりと再起不能になるまで、社会的に復讐してやる‼



女は再びマンションの中に戻っていった。よくよく観察していると、女が三階まで階段を登っているのが見えた。その後、女はとある一室に入っていった。



ここからその一室を観察することは出来ないものの、出入り口を見張ることは出来る。とりあえずはまだ待機するべきだな…



「くそっ…これだけじゃ駄目だな。しかたない…俺だけの力で無理なら、他人の力も借りるしか無いな。」



俺はとある人物に電話をかけた。電話の相手は、俺がこの弁護士という仕事を初めて以来、同期たちよりも信用している人だ。





「前田先輩。昼の時間に電話をしてすみません。」



『構わないよ。君から連絡を受けることは何回も有るけれど、不要な連絡はしてこないからね。今回も何か俺に助力してほしいんだろう?』



「そうなんです。助力…お願いできませんか?」



『もちろん構わないよ。ただ、まずは情報を教えてくれ。』



「はい。まず依頼者なんですけど…私の友達なんです。」



『友達?同世代の子かい?』



「いえ。小学生の時に色々とあって友だちになった5歳差の子です。」



『なるほど。まぁそこは詳しく聞かないことにする。それじゃあ1つ聞かせてくれ。一体どうしてその子に依頼されたんだ?』



「…痴漢冤罪です。それもなかなかに面倒くさそうな案件です。相手に慰謝料をその子の親が支払ってしまっていますし、対外的にはかなり厳しいかと…」



『それでも、君はその子を助けたいってことなんだろう?君にそこまで言わせる人間は興味がある。その子に合わせてくれるというのなら、私は協力しよう。』



「本当ですか!?ありがとうございます!!」



『ふふ…褒めても何も出ないぞ?』



「別に何も望みませんよ。それよりも先輩。その…大丈夫なんですか?」



『あぁ。俺は色々とあってもうトラブルの弁護しかしてないけど、そういう卑劣な物を許せないっていう気持ちはあるんだ。安心してくれ。』



「…言っててなんですけど、なんだか申し訳ないです。」



『気にすんな。俺がやりたくてやるだけだ。何かあったってそれは俺の責任だ。お前が俺のことを気にする必要はないさ。』



「分かりました。それじゃあ前田先輩頼みます。」



『おう。任された。しっかりと俺も動いてやるから、とりあえずお前はその少年のことを第一に考えて動け。良いな?』



「分かってます。それと一応ある程度は特定できてるので送っておきますね。」



『助かる。一から情報を集めるのはなかなか骨が折れるからな。ある程度情報を集めてくれてるのなら、共有してくれるだけでも相当助かるってもんだ。』



そう言って前田先輩は電話を切った。俺も一度ここから離れて、事務所の方に戻ることにした。


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