第8話 絶対に許されない
「連れてきたから安心してくれ。相葉先生頼みます。」
友達が連れてきた先生は少し年を取っている老人のような方だった。だがその風貌からは想像もできないような何かを感じた。
「相葉先生お願いします。この子ずっと頭が痛いみたいで…」
「ふむ…少し待ってくれ。さっき多少は話を聞いたが、詳しく聞けていない。だから少し話を聞きたいんだ。だから5分…5分だけで良いから時間をくれ。」
「大丈夫です。」
5分ほどが経ち戻ってきた相葉先生の顔は少し曇っていた。俺は少し不審に思い、相葉先生に訪ねた。
「相葉先生?どうなんでしょうか?」
「…聞いた話を元に判断する話だから、これを真に受ける必要はないのだが…彼は色々と抱え込みすぎたのかもしれない。つまり彼の今の精神状態は最悪と言っても良いところだ。だから彼にとって不都合に働くような記憶を必死に抑え込もうとしているのかもしれない。」
「…なるほど?」
「ここから話をする内容は難しい内容になる。だからできる限り簡単な言葉に変換して話すのだが…彼はいわゆる多重人格障害つまり、解離性同一性障害を発症している可能性がある。」
「多重人格?言われてみれば…」
「ん?心当たりがあるのか?」
「…はい。母親に許可を取りに行く時に、同伴してました。ここに来る数十分前なのですが…不意に頭を抑えていた手をおろして俺に普段とは少し違う口調で話しかけてきたんです。」
俺がそう言うと、相葉先生は頭を抱えこんでため息を付いた。
「ふむ…その話を聞く限り、やはり先程言った通りの可能性が高いな。正直に言わせてもらうが…その子は精神的に今病んでいる状態だ。もし家族すらその子を傷つけたのであれば君が様子を見ないといけない。それでも良いのか?」
「俺自身は別に何も問題ないです。ただ、法律は守らないといけません。病院にはなんとか来れても、家まで連れ込むというのは難しいです。数時間というのであれば問題ありませんが、数日〜数週間預かるとなると法律の問題が発生します。」
「そうだな。そしたら…私も協力することにしよう。まずは彼についての理解が大切だ。多重人格者…つまり今の彼に最も必要とされるのは、絶対的な信頼を置くことができてなおかつどんな状況であっても必ず味方でいてくれる人だ。そしてその条件に合うのは今のところ、君しかいない。」
「俺はどんな事を言われようとも、世間から批判されようとも必ずこの子の味方でいます。そう約束したので。」
「…私としても1人の患者が世間から根拠もなしに疑われるのは解せない。とりあえず精神面でのサポートは任せてくれ。もちろん君にも助けてもらうことになるがな。」
「安心してください。もちろんそのつもりです。それよりも翔太に今後は無理をさせないように学校に行かせないという措置を取ったほうが良いのでしょうか?」
「いや…本人の意思を尊重する形の方が良いだろう。もし、彼が学校に行きたいと言っても必ず否定しないでくれ。彼なりの考えだって有るのだから、それを強制するような行動は絶対に避けたほうが良いだろう。」
「わかりました。…それでは今日のところはこれで失礼します。」
「あぁ。お大事にな。それと…これを後で登録しておいてくれ。私の携帯電話の番号だ。こういうのを本来教えたりするのは不味いかもしれないが、そんなのは関係ない。君が頼ってきたらいつでも私は動くことを約束しよう。」
「相葉先生…ありがとうございます。」
俺は翔太を連れて、病院を出た。この病院には後数回お世話になるかもしれないな…と思いながら、再び車を走らせ自分の事務所にたどり着いた。俺の弁護士事務所は狭くはないものの、決して数人で住むのに向いているというわけではない。
一応客間のようなものは有るが、そこで寝泊まりするというのもストレスがかかるだろう。
「はぁ…難しい。だけどこれは翔太のためだ。俺が我慢して、翔太の心が少しでも休まるんだったら何も問題はない。よし…帰ったら掃除だな。」
俺は車から降りて、眠っている翔太のことを起こして事務所の中に案内した。とりあえず今は疲れているだろうから、翔太には休んでもらおう。
俺はすぐにこの件について、今持っている全ての人脈と知識を利用して法に触れない範囲で様々なことをすることを決めた。
まず手始めに痴漢を訴えた自称被害者について徹底的に調べ上げる。これが一番大事だ。これに関しては翔太の母親に電話をかけて聞き出せば問題ない。慰謝料を支払ったという話だったから、実際に会っているのだろうし住所自体は問題なくたどり着くことが出来るだろう。
ついでに翔太の事を取り押さえた挙げ句、ひどいことをした周囲の男についても調べないといけない。翔太自身に目立った傷がないにしろ、心には大きく傷を負っている。それに確か…さらされたとか言ってたな。
「…この動画か?私人逮捕系ってやつだな…本当に呆れるな。」
俺は動画投稿サイトで何度も検索をした。そしてようやくそれらしき動画にたどり着くことができた。動画を閲覧してみると、意図的な編集がされているのにも気づいた。
「…絶対に許さねぇ。こいつの人生終わらせてやる。」
ふつふつと怒りが湧き上がり、俺の心を怒りが黒く染め上げた。俺は眼の前のパソコンの画面に映る1人の男を睨みつけて、手元にある1枚の紙をクシャクシャになるまで握りしめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます