第3話 妹
「…これだけ持ってけばいいよな。」
俺は自分の部屋にある物をほとんど放置して出ることにした。貴重品は既にポケットに入れているし、スマホの充電器などの必要なものも全て用意したバッグの中に入れておいた。
正直俺はもうこの家にいたくない。一刻も早く家から出て、家族を含めほとんどの人と顔を合わせずに生活をしたいと思っていた。
だが魁兄にとっても俺という存在はリスクになる。いくら昔からのよしみと言えど、自分の立場が悪くなり迫害されるようになってしまっては本末転倒だ。俺の事を切り捨てても特段問題はないだろう。
方や社会人、方や高校生だ。魁兄は俺の事を昔から良くしてくれたけど、自分に危機が迫ればこれまでのようにしてくれない可能性だってある。そこのところは覚えて置かなければいけない。
「久しぶりにあうなぁ…俺から持ちかけた事とは言え、なんだか申し訳ないなぁ」
俺は先程よりも激しくなった頭痛に耐えながらも、立ち上がり必要最低限の物を持って自室のドアを開けた。この時間であれば母親、父親共に出かけているだろう。
俺は十数年歩いた部屋の前の廊下を踏みしめながら、1階のリビングへと向かった。俺の部屋は2階にある。つまり玄関に向かうにはどうしてもリビングを通る必要があるのだ。
リビングを通り過ぎ、靴を取り出して履いた。先程から頭痛は更にひどくなってきている。これはすごく危険だ…
俺はふらふらしながらも、なんとか靴を履き終えて玄関を開けようとした。しかし俺が玄関のドアに手をかけるよりも前に、後ろから誰かが話しかけてきた。
「痴漢をするなんて最低‼あんたなんて家族じゃない‼この家から出てって‼」
内の家は俺を含めた四人家族だ。父親、母親、俺、そして妹だ。1年ほど前からだろうか…何故か妹は俺に強く当たるようになった。原因はわからないけど、俺のことがなにかと気に食わないそうだ。
「…そうやって人の事を決めつけるのは直したほうが良いぞ。まぁお前に言った所で心に響かないだろうがな。」
「当たり前よ‼あんたみたいな変態痴漢野郎に、説教される道理はないわ‼それよりもさっさと出てって‼あんたが居るの不快なんだけど‼」
妹にこんなふうにまくしたてられるなんて、なんて情けない兄なんだろう。だがここまで言われて言い返さなければ、まるで俺が本当にやったのだと受け止められてしまうだろう。それは避けなければいけない。
「変態痴漢野郎ね…その言葉取り消せとは言わないけどさ。他人を侮辱する癖は直せ。これは俺からお前に言える最大限の忠告だ。それに俺は痴漢なんてしていない。直にお前は後悔するだろうな。」
俺はそういって、玄関から出ていこうとしたが妹に話を続けられてしまったために、無視して出ていくことができなくなってしまった。
「私は万年2位以下のあんたとは違って、順位は学年でずっと1位。それに運動だって県大会に出れる子たちと同程度は出来る。それにあんたみたいに性格も終わってないわ。後悔?するわけ無いじゃない‼」
「良かったな。万年2位以下だからなにかあるのか?別に順位は関係ないんだよ。勘違いしてるようだから言っておくけど、勉強で切なのは順位じゃなくて成績だ。それとお前が運動できるから何なんだ?運動が出来るからなにかあるのか?」
「それは…」
「…すぐに出てこないじゃないか。この場を借りて言わせてもらうけどな、お前の性格は終わってるよ。1年前くらいを堺にしてお前は変わったんだよ。今のお前を現す良い言葉がある。『傲慢』だよ。他者を常に見下すその姿勢…俺は大嫌いだ。」
「何?また説教?犯罪者のあんたが私に説教できるの?」
「犯罪者呼ばわりされることは不快しかないな。まぁ良いや…傲慢なやつにはなにを言っても変わらないからな。」
俺は後ろで騒ぐ元妹の事を無視して、玄関から外に足を踏み出した。外は少し寒いが耐えられないほどではない。どうせ学校にはしばらく登校することができないだろう。もし登校する機会があるとしてもそれは…
今回の件についての処罰を言い渡すだけに終わるだろう。
学校側としては今の俺は爆発寸前の爆弾と言っても過言ではない。今までどれだけ頑張って来たとしても、結局は一度ミスをすれば足切りにされて終わるのだ。
俺はそんな事を考えながら、歩を進めた。魁兄が来るには後数分かかるだろう。数分の間…俺は今まで魁兄と遊んだ公園で待機することにした。
自動車を運転中だから、魁兄は電話に出ることができないだろうし伝言メッセージだけを残して俺は公園のブランコにのってひたすら空を見上げていた。
空はまるで俺の心を表しているかのように、暗く…そしてどんよりとしていた。更にポツポツと雨が降ってきた。
「…そろそろ来てくれるかな。」
ブランコから降りて公園の前で俺は待った。俺が公園の前に立ってから1分としない内に車が1台こちらに向かってきた。
車は俺の前に停車すると、後部座席の扉を開けてくれた。そして運転席のところから魁兄が『乗って‼』というかのように後部座席の方に親指を立てていた。
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