第2話 刺すような激痛

父さんに顔面を殴られ、俺は床に倒れ込んだ。そんな俺の事を父さんは睨みつけながら、流石に心配して駆け寄ってきた警察官に向けてこういった。



「うちの愚息がすみませんでした。被害者になんてお詫びをすればいいか…」



そうして警察官と少し話した後、床に倒れ込み顔面を抑えている俺に向かって父はこういった。



「お前にはがっかりした。優秀で性格もいい。でもお前はこういう事を普段から考えているようなやつだったんだな。どうやら過剰評価だったみたいだな。」



母親は俺の事を睨みつけ、父親の後を追ってすぐに行ってしまった。



俺も後を追って事情を説明しようとしたが、突然頭が割れるような激痛に襲われて俺はその場に再び倒れ込んでしまった。犯罪者に厳しい警察も、流石に頭を抑えて倒れ込んでいる人に対してなにか思うものがあったのか、こちらに向けて歩いてきた。



だがその警察官が声をかけてくるよりも先に、先程よりも痛みは大きくなっていった。まるで剥き出しにされた神経一本一本に熱した針を突き刺されているようだった。



頭が割れるような激痛は際限なく増幅していき、俺の視界は暗転した。






そうして次に俺が目を覚ますと、俺は自分の部屋のベッドで寝ていたようだった。あれから何があったのかは分からないけど、無事に自室に来ることはできたようだ。



目を覚ました俺は普通じゃ考えられないほど落ち着いていた。ポケットからおもむろにスマホを取り出すと、俺はそのスマホで唯一信頼できる人に連絡をすることにした。



その人物の名前は魁戸…お兄ちゃんだ。俺が唯一無条件で信頼できる人と言っても過言ではない。どうして俺が彼のことをそこまで信頼しているか。それは小学生の頃の話に遡る。



小学生の頃、俺は周囲と馴染むのができずクラスで孤立していた。昼休みや休み時間…俺はそれらを全て1人で過ごし、悲惨な学校生活を送っていた。家に帰れば父親と母親が勉強をしろと俺に言ってくるような環境で、小学生ながらにおかしいと感じていた。



そんなある日…学校の行事で、上級生が下級生の事を連れて学校を案内すると言うものがあった。その時にペアになったのが魁戸兄ちゃんなのだ。



年は離れているし、実際に兄というわけではないが彼のことを兄のように俺は慕っている。小学校を卒業してからもずっと俺と関わってくれたのはいい思い出だ。



スマホの連絡先は2年ほど前に教えてくれたから、その時からずっとこうやって連絡を取り合っている。魁戸兄ちゃんはしっかりと事情を説明すれば庇ってくれるだろう。でも魁戸兄ちゃんも変なことを言われるかもしれない。



そう思うと不思議と指が動かなくなった。だけどこんな所で止まってしまえば無実を証明することもできなくなる。



メッセージアプリには幾つかの機能があり、その中には電話機能もあった。電話機能を使い、魁戸兄ちゃんに電話をかけると、魁戸兄ちゃんは3コール目で出てくれた。



『どうしたんだ翔太?急に連絡を駆けてくるなんて珍しいじゃないか。それにもう学校の昼休憩以降の時間なんじゃないか?』



「魁兄…実はね、ちょっと面倒くさいことに巻き込まれちゃったんだ。」



『面倒くさいこと?』



「朝ニュースを見たわけじゃないから、なんとも言えないんだけどさ…痴漢がどうたらこうたらみたいなニュースやってなかった?」



『…すまん。俺も今日は朝早くなくて、1時間前に起きたばっかりなんだ。だからニュースは見てないんだよね。』



「そっか…」



『でも急にどうしてそんなことを聞いてきたんだ?』



「実はね。痴漢冤罪に巻き込まれちゃったんだ。どうにかできないかな。」



『とりあえず落ち着いてるようなら良かった。冤罪に巻き込まれると、結構な確率で精神似に来るからな。とりあえず事情を聞きたい。何があったのか聞かせてくれないか?』



「うん。これは昨日のことなんだけど、俺はいつもどおり電車を使って学校に向かってたんだ。でもね、電車が途中急停止したんだ。」



『電車の急停止はよくあること…と言うとあれだけど、それ自体はあるな。そこから何があったんだ?』



「俺の不注意なんだけど、スマホに集中してて正直急ブレーキすると思ってなかったの。だから体制崩しちゃって、倒れちゃったの。」



『なるほど。』



「その後なんだけど…倒れ込んだ位置が悪かったみたいで、女性に体の一部がぶつかっちゃってたの。そしたらその女性の人に叫ばれて…そのまま周囲の男に取り押さえられたんだ。」



『叫ばれた?当たっちゃった位置が胸部とか、太ももとかそういう感じってことなのか?現場を見ているわけでもないし、実際どうだったのかはわからないけど…多分こんな感じなのかなって思うんだが…』



「うん…すぐに当たった手を引っ込めたから、正直わかんない。その後は駅員やら警察やらが来てそのまま…って感じかな。」



『警察か駅員が指紋がどうたらこうたらとか言ってた?1番はその女性の服を検査することなんだけど…というか誤認逮捕を防ぐためにそういう検査はやらなくちゃいけないんだけどな。』



「ううん…動転しててそういうのわかんなかった。それに…正直何を話したりしたのかもあんまり覚えてないんだ。」



『とりあえずもっと詳しく話を聞かないとわかんないから、徒歩でもなんでも来れる?それとも俺が迎えに行こうか?』



「迎えに来てくれると嬉しい。なんか朝からずっと頭が痛いんだ。それになんだか吐き気もするんだ。」



『分かった。20分くらいかかるけどちょっと待ってて。それと多少荷物はまとめておいて。』



「…うん。」



『じゃあ少し待っててくれ‼すぐに出るからな‼』



魁兄はそう言って電話を切った。俺は電話を終えた後最低限の身支度を整えることにした。一応私服には着替えて、何かあった時用に最低限の物は持っていくことにした。






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