第4話 事情把握(+魁戸視点)

「とりあえず、このタオルを使って拭いてくれ。今さっきだもんな。雨振ってきたの。」



「…うん。」



「よし。それじゃあ車出すから、一応シートベルトはしておいてくれよ?後部座席とは言え事故になったら大変だからな。シートベルトをしているのとしていないのでは大きく差が出るから、絶対つけといてくれよ?」



「分かってる。それと急なのに車を出してくれてありがとう。」



「はぁ…当たり前だろ?俺とお前は、年が離れているとは言え色々と楽しい時間を共有した中だからな。それと疲れてるだろうから、一旦寝とけ。これから忙しくなるから、寝れるときにはしっかりと寝ておくんだ。」



「うんわかった。」



俺は詳しい事情を魁兄に話すことができないまま、眠りに落ちてしまった。俺の頭の痛みは雨が降り始めてからすこぶるひどくなっていたが、魁兄と会ってからは不思議と和らいだ。













魁戸side


「…寝たか。」



俺は普段、弁護士の仕事をしている。先輩の弁護士たちと仲良くなり、最近は色々な所に誘われるようにもなった。そして今日も何かと誘われていたが、仕事に追われていたため断った次第だ。



そんな中…昼休憩中の俺に一本の電話が来た。最初は「貴重な昼休憩に電話をしてこないでくれよ〜」と思っていたが、電話の相手を見て俺はすぐにその気持を変えた。



電話の相手は俺が小学六年生の時に仲良くなった男の子だ。そんな彼も今では高校生に進学し、楽しい学校生活を送っているだろう。



だがそれだとおかしい…なぜなら今は社会人が昼休憩をするような時間だ。翔太が通う学校は、スマホを使用するのは厳禁だし、連絡をしてくるはずがない。つまり「何かに巻き込まれたのでは?」と俺は想像した。



崩していた体制を整えながらも、スマホを手にとって電話に出ると電話越しからは普段の彼からは想像もできないような暗い声が聞こえてきた。



「そう言えば面倒くさいことに巻き込まれたって言ってたな。後でその事は詳しく聞くとして…」



俺の頭の中には、先程の電話越しに話した内容が延々とリピートされていた。確か痴漢冤罪に巻き込まれたと言っていた気がする。



「痴漢冤罪…後で事情は詳しく聞かないとな。それにしても…これは怪しいな。」



俺が怪しいと言うのには理由がある。なぜなら電車で急停止した事は周囲の人間も知っていたはずだからだ。転倒してあまり良くない部位に触れてしまったのだとしても、そこまでするものなのだろうか?



確かに電車という若干の閉鎖空間で、触れられるのは嫌だろうし分かるけど…そこからの展開がおかしい気がする。



『そんなすぐに周囲の男たちが取り押さえに来るのか?』と俺は思わず考えた。本人は冤罪だと言っているし、警察だって調べるはずだ。それに付着物を調べるなりすれば良かったんじゃないか?



「それだと駄目か…翔太は触れてしまったと言ってたからな。不本意だとしても、触れてしまっている以上、そこを突かれると厳しいか…」



こうなってしまった以上、俺も関わらない訳にはいかない。1人の大人として、俺は彼の事を助けたい。



「…すぐに行動しないとな。まずは徹底した証拠集めだ。自爆するなりしてくれるのが一番嬉しいが、このまま放置なんてしたら一番大変になりそうだ。まずは翔太君のご両親にも会わないと…」



俺が今しているこの行為も、法律的には未成年誘拐に当たってしまうはずだ。もちろん家に泊めさせるなりしたいのは山々だが、それは本人に説明して納得してもらうしか無い。



今はこうするしか無いのが本当に辛い。もちろん法律に触れないのならすぐにでも助けたいが、俺も法の番人として守るべきところは守らなければいけない。



「…とりあえずは自動車を止めれるパーキングを探すか。そこで話す分には大丈夫だろ。」



俺は少し高いものの、駐車できる場所を見つけた。すぐに駐車して、俺は翔太が目を覚ますまで待機することにした。



翔太は時折頭を抑えているようで、顔も苦痛に歪んでいる。なにかしてあげたいけど、俺にはなにもすることはできない。



パーキングに止めてから数十分くらい経っただろうか…翔太は目を覚ました。俺が息をつくと、翔太は少し申し訳無さそうな顔をしていた。



「気にしないで。それと頭を抑えていたようだけど、痛いのか?」



「…うん。今までこんな事は感じたこともなかったのに、急に痛くなったんだ。今も若干痛い。」



「そうか…ちなみにどんな感じで痛いんだ?」



「剥き出しにされた神経一本一本に針を打ち込むような感じの痛み。でもこれは1時間前くらいの症状で、今は少し改善されてるんだ。今は針を打ち込むような感じじゃなくて、爪を立てるような痛みかな。」



「…わかった。とりあえず想像を絶する痛みということは俺にも分かる。病院には行くのか?」



「病院?…一応今度行こうかな。」



「その時は俺を呼べ。送迎してやるから。」



「ありがとう…魁兄。さっきは簡単にしか事情を説明できなかったから、もう1回詳しく事情を説明しても良い?」



「それじゃあお願いできるか?俺としては冤罪を見過ごすわけには行かないんだ。」



30分くらいかけて翔太がゆっくりと語ってくれた内容を全てメモし、俺は纏めることにした。話をまとめた俺は、タイミングを見て翔太の父親と母親に話をすることにした。



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