四 口噛み

 翌日夕刻。俺とまり子は梶聖也の中華料理店で晩飯を食った後、散歩した。

 俺とまり子は異様にベタベタしていた。梶聖也が料理に何か仕込んだのはまちがいなかった。媚薬というのはウソでは無さそうだった。

 俺は深夜の公園の野外ステージでまり子を抱きしめ、激しく唇を重ねた。餃子の味がする。


「激しいのね。うふふ・・・」

 まり子はうれしそうだった。再び激しく唇を重ね、舌を噛んだまま口から引き出した。強く噛んではいないが甘噛みではない。そして、そのまま言った。

「誰に何を頼まれて、俺に近づいた?話さないとこのまま噛み切るぞ!」

「ほのままだほ、はべれない・・・(このままだと、しゃべれない)」


 俺はまり子の下唇を噛んだ。これまた強く噛んではいないが甘噛みではない。

「噛み切られたくなかったら言え?」

「三田中よ。あなたたちが本当に新井慎司を抹殺するか、監視しろって」

「自殺に見せかけて殺せと指示したのは三田中代議士か?」

「そうよ」


「お前、三田中の何だ?」

 まり子は三田中代議士の愛人の娘には思えなかった。

「何に見える?」

 まり子は下唇を嚼まれてうれしそうだ。変態かと思った。そういう俺もこうしてるんだから似た者同士か。それにしても、まり子は三田中代議士の愛人とは思えない。秘書のような感じない。物怖じしない性格から考えて、勝手気ままに育った印象が強い・・・。

「三田中代議士の身内か?」

「あ・い・じ・ん・・・」

 まり子は俺に抱きつき、激しく唇を重ねて身体を密着させた。


 これも梶聖也が仕込んだ媚薬のせいだと思っていたら、まり子が思わぬことを言った。

「うそよ・・・。もっと激しく吸ってね。私の部屋で・・・。

 あたし、あなたをズッと思ってたの。憶えてる?マコを?」

 まり子は顔を離して俺を見つめた。


「えっ?マコって、あのマコちゃんか?俺の嫁さんになるって言った?」

「そうよ。だから、ズッとあたしは独りだった。あなたもズッと独りだった。

 いろいろ調べたわ。リヨもあたしを待ってるっと、ズッと思ってた。

 そうでしょぅ?」

 俺はまり子に嘘を言えなかった。俺は幼い頃、リヨと呼ばれていた。まり子の言うとおりだったからだ。

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