1-3 龍、弟子、旅
案ずるより産むが易し
——《とある商人のノート》
__
銀髪の少女が窓の外を見つめ、嬉しそうに知らぬ間のメロディを口ずさむ。
「ふんふんふん、ふんふんふん~」
残念なことに、彼女の伴奏相手はただ燃える木炭だけだ。
「ぎしぎし」
という音と共に、部屋のドアが開かれた。中に入ってきたのは以前ユージンを押さえつけた女性のガードだ。
「珍しいことだ、連邦やつたちが<無情のイザベラ>って呼んでいる奴が、こんな音痴な曲を口ずさんでいるなんて」
彼女は言いながらイザベラの傍に歩み寄り、すぐに壁に寄りかかった。
「友よ、そんなこと言われると傷つくじゃないか。」
彼女、イザベラと呼ばれる銀髪の美少女が、ゆっくりと体を転がした。太陽の光が彼女の頬を照らし、銀の髪が輝き、赤い瞳がまるで宝石のように光っている。海風が彼女の髪をそっと揺らし、洗練されたワンピースが軽やかに舞い上がる。イザベラはまるでアートの中から飛び出したような姿で、非現実的で美しい光景が広がっていた。
「あなたがどんな奴か、それは私が一番よく知っているんだよ。」
入ってきたばかりの女性は、20代くらい。動きやすい革の装備に身を包み、その上にはをコートを羽織っている。足元は泥だらけの長靴で、腰には大剣がぶら下がっている。背が高く、金髪のポニーテールが彼女の背後で揺れ、顔には灰汚れが少しだけ見え隠れしていた。
「リナータ、あの少年は?」
イザベラはからかう言葉を気にせず、少年の状況を尋ね始めた。
「大丈夫だよ、ルーカスがチェックしてくれた。ただ疲れすぎた。」
リナータと名乗る背の高い女性が肩をすくめた。
「正直言って、彼が突然倒れるのはビックリしたよ。あなたが彼に何かしたのかと思ったくらいだから。」
「この私は子供に対してそんなことする悪党に見えるか?」
イザベラの表情はまるで泣き出しそうな感じだ。
「そうだよ、とってもそう見えるよ。」
目の前の少女の悲しそうな表情を無視して、リナータは冷静に答えた。涙攻撃が通用しないのを見て、イザベラはいますぐに通常の微笑みに戻った。しばらくの沈黙の後、リナータは尋ねることに決めた。
「あなたがなぜこの子を欲しいか、本音を教えてくれて。」
「大儲けできるからさ。」
イザベラは言いながら、机の上のお菓子を手に取り、口に運んでいった。
「……イザベラ、お前は欲深く、権謀術数、酷い商人だとは知っているが、やはり、私は人身売買は受け入れがたいな……」
「友よ、何を言っているんだ!ただ彼が素晴らしい才能を持っていると思っただけさ。彼の将来が期待できるんだよ。」
「才能?剣を握ることに関しては彼に特別な才能を感じないけど、もしかして魔法、それとも商才?確かに他の子供たちよりも早熟で、一人でこんなことをやる度胸はある。しかも、彼の仕入れ価格が私たちの知っているよりも低いってのは驚きだ。でも、それって君が彼を弟子にする理由じゃないと思うんだけど。」
リナータは不思議そうに言った。
「いや、いや、私が言っている才能はそんな浅はかなものじゃないんだよね…」
友達の疑問に対して、イザベラはテーブルに座り、ケーキを食いながら答えた。
「うーん、彼と他の子供たちと一番違うのは、なんだろうね、彼の眼差しかな。」
やっとケーキを飲み込んでから、彼女は言葉を続けた。
「眼差し?」
「うん、最初は、びくびくして、まるでびっくりしたウサギみたいだったんだ。でも、追い詰められたとき、彼の眼差しが変わったんだよ。まるで小さなライオンみたいにね。」
言い終わると、イザベラはもう一口ケーキをペロリと食べ込んだ。
「脅迫が君の悪趣味じゃないかって?私たちには何の影響もないし、確かに彼はすべての商品を仕入してくれた……」
リナータはまだちょっと理解しきれていない様子だ。
「友よ、君の優しさは、彼にとってはただの毒さ。」
イザベラはケーキをがつがつ咀嚼した後、言葉を続けた。
「毒さ?何で?」
質問を続けた。
「今回手っ取り早く薬を手に入れて、何も代償を払っていない、それなら次はどうなるんだろ?彼が絞首刑の台に立つまで、彼はやめない。これが人間ってやつだ。私がやっているのは、ただ彼が自分の行動に対して怖れを感じるようにするだけだ。彼には才能があるんだ、だれにも教わらないでこれだけできる。でもこの世界では、それだけじゃ足りない。恐怖が理解できない者は生き残れないんだ。」
言い終わると、イザベラは自分のデザートで汚れた指をなめ、テーブルの上のケーキやデザートはもうなくなっていた。一方でリナータは考え込んでいるようでした。
「まさか、あなたが彼に腹を立ててるだけなの?」
「えへへ、ばれちゃったね。」
――
「入れ。」
監獄の看守の声が冷たく無慈悲だった。青年は強力な推進力を感じ、その後、無窓の牢獄に無理やり押し込まれた。彼は氷のように冷たい石の床に重く転がり、弱さからすぐに立ち上がれなかった。
牢獄の中は薄暗く、湿気と腐敗の匂いが漂っていた。青年は苦しんで起き上がろうと試みましたが、体は痛みでがくずれ、直立することができなかった。
「明日は君の絞首刑の日だ。最後の日をしっかりと反省しておけ。大詐欺師。」
看守の嘲笑が牢獄に響き渡った。青年はその言葉を聞いて、絶望が心を覆いました。
「違う、俺は……ただ……」
青年は弱々しい声で説明しようとしましたが、看守は既に冷酷に立ち去り、彼を一人取り残して暗い牢房で恐怖に包まれる中にいた。
——
ユージンがベッドから急に座り上がり、服が背中にピタリと張り付き、汗が額から滑り落ちた。彼は一時的にどこにいるのか理解できず、迷いながら四方を見回した。目の前の光景が彼の瞳孔に映り込み、彼は一人用のベッドに座っていることに気づいた。
この部屋は小さくても整然と片付けられている。壁には淡いカーテンがかかっている。夕日が窓から差し込んで、床には赤色が広がっている。部屋の一隅には机があり、椅子が横に置かれ、彼の外套もドア脇のクローゼットにかかっていた。
ユージンは自分の記憶の中で一生懸命に糸口を探し、目の前の情報を整理しようとする。この部屋の平和で整頓された様子は、彼の不安と汗まみれの姿とははっきりとした対比をなしていた。彼は静かにベッドに座り、この見知らぬ環境とさっきの悪夢について思索した。
さっきの悪夢を思い出すとめまいがしてしまうので、彼はなるべくそれらのことを考えないように決めた。本当に把握しなければならないのは、今の状況だ。彼はまだ自分が気を失う前の場面をぼんやりと思い出している。
彼は慎重にベッドから起き上がり、床からシーツが軽く滑り落ちた。彼は手を伸ばし、自分の外套を取り上げると、外套の表面には冷たさが残っていた。ドアを開けると、軸が軽く
「ぎしぎし」
と音を立て、彼は一瞬息を呑んで、他の誰かを驚かせないように気をつけた。ドアの向こうには廊下、何もない静寂な雰囲気がただよっていた。慎重に廊下の端まで歩き、少し安心した。無意識に外套を整え、体によりフィットするように調整した。 端に到達した扉の前で、そっと甲板に通じる扉を開ける瞬間だ。
「お前、目を覚ましたみたいだな。なんでそんなにこっそり動くんだ?」
この声が船内の平穏を打ち破り、ユージンはびっくりして跳び上がりそうになった。彼は戦々恐々と振り返り、リナータが今彼の後ろに立っているのを見つけた。少年は突然見つかることでちょっと気まずい感じになった。
「すまないな…」
言いながらも、彼の視線は完全に警戒を解かない。
「そんなにビクビクするな。イザベラは多分甲板にいるはずだ。」
言い終わると、リナータは力強くデッキへ続く大きな扉を押し開け、大股で外に歩いていった。
彼女の言葉を聞いてユージンは一瞬固まり、脳みそには戦慄を覚えさせる赤い瞳が浮かんだ。ユージンは歯を食いしばり、そして素早くレナータの後に追いついた。
甲板上、銀髪の少女は今、甲板の手すりに上半身を掛かり、目を下の光景に注いでいた。清風が彼女の銀髪をなびかせ、微風に舞い上がる髪の毛が軽やかに舞っている。
「何を見ているの?」
ルイナータは彼女の隣に歩み寄り、手を手すりにかけて、彼女の視線に従って下を見下ろす。下には港で働く労働者たちの姿があり、彼らは忙しく往来し、荷物を運んでいる。
「そろそろ時間だろう。配達の奴らもそろそろ戻ってくるだろう。」
少女は頭も振らずに言った。彼女の目はまだ下をじっと見つめており、まるで特定の場面を期待しているかのようだ。船体が微動し、海風の中で遠くの波の音が聞こえてくる。静かな雰囲気の中には緊張感が漂っているようだ。
「あの少年が目を覚ましたよ。」
リナータが声をかけて彼女をユージンを意識をした。
友人の言葉を聞いて、少女は手すりから軽く飛び降り、優雅にデッキに着地し、そしてデッキの入口に向かって振り返った。この瞬間、少年はドアの傍らに立って、自分が何か侵入者のような気がしている。彼は場の尴尬を緩和するために何か言おうと試みたが、唇が少し乾燥しているのを感じ、わずかにぎこちなく微笑んだ。
「まだ何をボーっとしているの? 私には何と呼ぶか決まっているでしょう?」イザベラの表情には少しの冷やかしが込められていた。
少年は緊張感を感じ、彼の視線は舷梯(船と桟橋を結ぶ階段)と船体の間を動き回り、まるで視線を逃れる場所を探しているようだ。最終的に、彼は素直に答えることに決めました。
「せ、先生?」
「よし、これからお前は私の弟子だ。」ユージンの回答を聞いて、イザベラは非常に満足そうに頷いた。
「今日は先に帰れ。明日の朝6時に出発だ、遅れるなよ。」
彼女の視線は依然としてユージンの前に固定されており、まるで彼の返答を待っているかのようだ。
「了解!」
ユージンはすぐに頷き、その口調から敬意が滲み出ている。
「リナータ、彼を船から降ろして。」
「はい、はい、会長様。」
——
海辺の朝、淡い薄霧が広がる広大な海を覆っていた。まるで夢のような雰囲気。遠くの水平線が海と交わり、穏やかな風景が広がっている。太陽は雲を通して海面に差し込み、キラキラと輝くかのように、まるで海上の無数のダイヤモンドのようだ。海の波が岸辺に軽く打ち寄せ、美しい音を奏でている。
甲板の手すりには、リナータとイザベラが並んで立っていた。背後では水夫たちが船の準備をしている。港のざわめきと海風のそよぎが交じり合い、まるで新たな冒険が始まろうとしているような雰囲気。
「奴、逃げないよね?」
リナータは港にユージンの姿が見当たらないのを見て、少し眉をひそめた。
「友よ、賭けてもいいんじゃないか? 彼はきっと来るさ。」
イザベラは自信の微笑みを浮かべ、深い視線でまるで未来を見通しているかのようだ。
「そう言うなら、信じてやるよ。」
リュネータは肩をすくめて答えた。ふたりの会話は黙契と冗談にあふれていた。
ふたりが話している最中、港に突然一人の少年が姿を現した。息を切らせ、バッグを肩にかけている。ふたりの女性は一斉に笑顔をやめ、その少年に注視した。
商人になったドラゴン姫は金貨の力で世界を征服したい! @siroikumori
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