1ー2 龍、噓つき、金貨

 部屋の中は静寂に包まれ、燃える木炭の音が唯一の音を奏でていた。少年は目を逸らすようにして、目の前の銀髪の少女に直視することができない。視線を合わせるたびに彼は恐怖を感じた。


 温かい部屋に座る少年の前には、テーブルの上に精巧に並べられたお菓子がある。部屋の中の光景は非常に温かく、ただし、少年の背中の影に立つ女性ガードがそこにいる。


「好みに合わない?」


 目の前の少女がテーブルに手を置く、頭をかしげながら少年を見つめた。


「いいえ、おいしいです。ただ、今はあまりお腹が空いていません。」


「ああ、それは残念だね。」


 少女は優雅な微笑みを浮かべ


「信封を見たことがあるか?」


 彼女の質問に、少年は顔を上げ、硬い微笑みを浮かべた。


「すみません、本当に信封を見たことはありません。」


「そうだったのね。こっちで一人バカなやつが仕入リストをなくしちゃったんだ。もう一度書くつもるとき、ねえ、何が起きたか分かる?」


 少女はここで言葉を遮り、右手の指が


「たた、たた…」


 とリズミカルな音を奏でた。


「まあ、それはともかく……」

 ユージンはなんとか逃げ出す口実を考えながら言った。


「その時に工房の人たちはリストに載ってる商品をちゃんと届けてきてくれたんだ。」


 少年の返事を待つことなく、彼女は続けた。


「あいつらは、この寒い日に子供を市場へ派遣することを咎め、その一方で礼儀正しく、しっかり者の良き子であることをほめてくれた――」


「ごちそうさまでした、、まだ仕事が残っているので、お先に失礼いたします。」


 そう言って、ユージンは目の前少女の言葉を我慢できずに遮るように立ち上がろうとした。しかし、その瞬間、女性のガードが彼の左肩にしっかりと手をかけ、椅子に強く押し戻した。 少年は表情が硬くなり、女性ガードの手が左肩に力をかけているのを感じた。


「これは……」


 しかし、彼の口から出ようとした言葉は、次なる言葉の洪水に消されてしまいました。


「お会計を済ませる際に、面白いことが明るみに出た。会計リストに風邪薬が余計に載っていた。でも、仕入リストに風邪薬を書いていないでしょう。」


 少年の身体には震えが走った。


「このくらいのお金は我々にとって問題ではありません。むしろ、この少年に感謝すべきだろう。必要な物資を早く運んできて、行程の遅延リスクを取り除いてくれたのだから。」


 少女の鋭い眼光が少年に注がれた。


「もしかしたらこの少年は客のものを勝手にいじくって、中から見つけたのかもしれません。それは重大な犯罪ですよ、港全体の評判にも悪影響を及ぼすでしょう。」


「違います!私は……」


 ユージンは我慢できずに叫んだ。


「あら、バレちゃいましたね。」


 少女の微笑みは変わることなく続く。


「まだまだ若いわね、がんばったんだから。さっきのように何も知らないふりをし続ければ、私も何もできないよ。」


 少女は言葉とともに立ち上がり、少年の前に歩み寄り、上から彼を見下ろした。


「では、説明をさせてもらうわね、少年。」

 ――


「商会の身分証明?買い物リスト?倉庫の住所?それと、ヘルメス号?」


 ユージンは手にした封筒を見つめ、考え込んでいた。突然、彼の頭に大胆な計画が浮かび上がった。


 翌日の朝、ユージンはいつもよりも早く家を飛び出した。そして、今日はいつもとは違う道を選び、市の中心の交易市場へ向かった。少年は市場で店舗ごとの商品の種類や価格を覚えようと努力し、同時に他の商人たちの礼儀や取引のディテールにも注目していた。市場の賑やかを感じ、商業の世界に没頭していく。最終的に、彼は一軒の薬局の前で足を止めた。


 少年は深く息を吸い、ドアを軽やかに開けた。


「チリンチリン~」


 ドアの鈴が甘い音を奏で、その響きとともに彼は薬局に足を踏み入れた。だが、薬局内に薬材の匂いが彼を少し戸惑わせ、無理に鼻をしわ付かせながらその匂いに慣れようとしていた。


「こんにちは、誰かいますか?」


「いらっしゃい……ん?子供?」


 客の声に応じて、薬材の陳列棚から一人の老人が姿を現した。彼は薬材を整理している最中らしく、穏やかな表情で少年に声をかけた。


「何かお探しですか?」


 老人は優しく尋ねた。


「商会の用で、いくつかの薬材を仕入れるんです。これが買い物リストと商会の身分証明書、ご確認いただけますか?」


 少年は歩み寄り、買い物リストと商会の身分証を老人に手渡した。老人は眼鏡をかけ、リストをじっくりと確認し始めた。しばらくしてから、老人は紙とペンを手に取り、必要な薬材をリストアップし、少年に向かって微笑みかけた。


「商品は直接桟橋の3番倉庫に届けますか?」


「はい。あ、そうそう、リストには書いてないけど、風邪の薬もいくつか追加でお願いできますか?」


 そう言うとき、ユージンは少し緊張した様子を見せた。


「おお?」


 老人は首をかしげながら言った。


「先生は昨夜に急に発熱したんです。でもリストは前日に用意されていたんですよ。」


「なるほど。君は先生の代理として、仕入れにきたんだね?」


 老人は少年を上から下まで見つめた。


「はい、その通りです!」


「君、小さな体けど、立派な仕事を果たしているじゃないか。」


 老人は言いながら、同時に価格を計算し始めた。


「子供がそんなに頼りにされるんなら、おまけして、銀貨53枚でいいよ。」


「着払いお願いします。」


「わかった、だいたい午後には届くだろう。」


 老人は頷いた。


「あの、おじいさん、風邪薬だけ先にもらってもいいですか?先生が薬を待っているんです、早めに届けたいんです。」


 ユージンは言う時、少し緊張していました。


「それならちょっと待っててくれ、薬を調剤してくる。」


 老人は頷き、薬材を取りに後ろの薬柜へと歩いていった。老人にとっては何もおかしいと感じず、ただ目の前の少年が商会で一生懸命働いて、仲間を気遣う少年だと思っただけでした。


 老人は必要な薬材を取り出し、薬を調合し始めた。彼はカウンターの後ろで作業しながら、少年との会話を続けた。


「君、商会の仕事は大変だろう?」


 ユージンは微笑みながら頷きました。


「うん、ちょっと忙しいけど、先生のためになることができて、それが良いと思っています。」


 老人は慈愛に満ちた笑顔で言いました。


「一生懸命働くのは当然のことだ。みんな大変だろうけど、一切順調でありますように。」


 少年は感謝の意を込めて


「ありがとう、おじいさん。僕は頑張ります。」

 と言いました。


 老人の笑顔はさらに温かくなった。


 その後、ユージンは用意された薬を受け取り、感謝をして、外に出た。

 __


「薬材だけじゃなく、リストの物資もちゃんと仕入れてきたわね。なんでそんなに必要なのかしら?薬はもう手に入れてあるんだけど。」


 少女は相変わらず冷静な表情で微笑みかけた。


「僕、僕は…」


「まあ、結果的には君、助かったのよ。でもね、同時に君は商会の資産に手を出したわけだからね。これって犯罪だよね。」


「その通りで、私も何も言い訳できません。事実です。」


 突如、ユージンは頭を上げ、少女の瞳を見つめた。


「でも、後悔はしてません。これは自分の選択。家族が病気にな

 って無力なまま見守るよりも、今のチャンスをつかみたかったんです!」


「ははははは、どうやら君はチャンスを逃さないタイプみたいね。」


 銀髪の少女は空を見上げ、笑みを浮かべつつ、身をかがめてきた、ユージンの瞳をじっと見つめた。


「やっぱり、おもしろいわ。ただ機会をつかみたがるタイプなんだね。」


 ユージンは内なる恐れに立ち向かい、少女の鋭い視線に逃げないで立ち向かった。 少女の赤いの瞳から映り出る少年の眼差し、力を宿っている。


 そして 少女は立ち上がり、その後で両手の指を2本立てた。


「君には2つの選択があるわ。一、私が君を牢獄に送り込む。二、商会に加わり、私の弟子になる。」


「他にも選択があるんだな…」


 ユージンは苦笑いしながら言った。


 返答を聞いて、少女はユージンの背中を向けた。


「これが第一課、取引。でも取引ってのはいつも公平じゃないのよ。」

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