雪解けの時

 雪菜が再び目をあけると、そこは見覚えのある元の公園だった。


「ゆ……め…?」


 雪菜はケーキボックスを抱え、あずまやの中にあるベンチに座っていた。

 どこまでが現実でどこからが夢だったのか、雪菜はボーッとした頭で考える。

 


 雪はいつの間にかやみ、厚い雲から太陽の光が差し込んでいる。

 太陽の光はまるで降り注ぐ光の束のように地上へと射し込み、雪の結晶に輝きを与えていた。


「綺麗……」




 雪の結晶がキラキラと舞い上がっていくように見える。先程までは塵のように舞っていたのに。


 雪菜は立ち上がり、太陽の当たる場所まで進んだ。


 そこは雪の結晶がキラキラと舞い、木々に積もった雪が深い緑と白のコントラストを美しく作り上げていた。

 子どもたちが遊ぶ遊具にも雪が積もり、ふかふかの布団をまとったような姿を見せている。


 いつもと違う世界がここにあった。雪菜には見慣れていたはずの景色が、まるで初めて見る景色のように輝いて見えた。


 さっきまで苦しいとギスギスしていた心が、雪が解けるようにゆっくりと和らいでいく。これは雪菜にとって、すごく不思議な感覚だった。


『人を想う気持ちってさ、とっても素晴らしいことだよ。そのために努力できるなら最高じゃない?』


 あの能天気な怪しい男の声が聞こえる。その言葉が、雪菜の心に積もった雪を解かしていく。



「すごく、すごく好き…。匠くんも桃花のことも……。二人とも…好き」


 雪菜はすーーーっと深く息を吸い込んだ後、大きな声で叫んだ。


「だぁ~~い好き!」


 そう叫ぶ雪菜の目に涙が浮かぶ。


「好きすぎて…困っちゃうよ…」


 誰もいない公園で、雪菜はおもいっきり泣いた。寂しくて、置いていかれたような不安を抱え、泣いた。


 でも不思議なことに、好きだってことを言えた自分に、胸のうちのあの訳のわからない辛さはなくなっていた。




※ ※ ※


「あれでよかったのか?」

「あぁ」


 先程の怪しい男が、もう一人の怪しい男と何やら話をしている。二人は空高い場所から雪菜を眺めていた。


「ミッシェル、本当はお前が呼ばれたんだろ?」

「あぁ。でも良いんだ、これで」

「そっか、お前がそれで良いなら僕は別に。ポイントも稼げたしな」


 二人はコートに手を突っ込み、人間界を見下ろす。


「カイト、そろそろサンタのタヌキ爺さん所に行くんだろ? 遅刻するぞ」

「お前も来るか?」

「行けるか! 俺を殺すきか?」


 カイトは嬉しそうにニヤニヤしている。


「じゃあな」

「あ、カイト! 俺のサングラスどうした?」

「あ…」


 あじゃえーよ! そう笑い合いながら、二人はお互いの道にわかれて進む。

 そうカイトと呼ばれた怪しい男は、天使族の見習い天使。もう一人の男は見習い悪魔のミッシェルだ。



 この二人の物語は、また別の機会に。



※ ※ ※


 雪菜は部屋のこたつに入り、ホットワインと昨日の残りのホワイトシチューで晩酌を始めようとしていた。


 一人だけのクリスマス。


 先程大泣きをしたので、寂しさも少し和らいでいた。


 テーブルの上にはクリスマスケーキ。苺と一緒にちょこんと乗っているお菓子のサンタさんの目元に、チョコレートがちょこっとついていた。

 それはまるでサングラスをかけたサンタさんだ。


 サンタは雪菜に気付いてもらうのを今か今かと、穏やかな笑みを称え待っている。



 『幸せが君の心に届きますように』


 サンタはそんな言葉を呟いていた。




END

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ホワイトクリスマス 桔梗 浬 @hareruya0126

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