27話 試着室で二人きり

 「あ、あの……夏楓さん?」


 試着室に連れ込まれたはものの、夏楓さんは僕のお腹に手を回し、背中にひしっとひっ付いている。


「はぁー。奏音くんの大きな背中好きぃー」


 とまぁ、急に夏楓さんが幼児退行しているのであった。


「どうしたんですか急に」

「……ちょっと甘えたくなった」

「なんですかそれ……。まぁこうなってしまっては別にいいですけど」


 とりあえず、夏楓さんの好きなようにさせておく。背中に感じる、愛しき人の体の柔らかさと温もりに頭がくらくらしそうになるが、気にしないように努める。


「ねぇ、奏音くん。好き。大好き」

「……本当にどうしたんですか急にそんなこと言って。まぁもちろん僕も夏楓さん のこと大好きですけど」

「……私、奏音くんのこと好きすぎて、どんどんダメになっていきそう」

「ダメダメな夏楓さんかぁー。そんな夏楓さんも絶対可愛いだろうなぁー」


 そう言うと、夏楓さんの僕を抱きしめる力が強くなった。


「……ね、ねぇ奏音くん。好きとか可愛いとか言いすぎ……」

「えー。夏楓さんがそう言うように誘導するのがいけないんですよ」

「……だって、だってぇー。……言ってほしいんだもん。褒めてほしんだもん!」

「いや、言ってほしいのか言ってほしくないのかどっちなんですか……」


 夏楓さんはどうやら知能レベルも幼児退行してしまったらしい。


 「奏音くん、こっち向いて」


 夏楓さんがそういうので、一回離れてもらって夏楓さんのほうを向く。と同時に、夏楓さんが僕の胸の中に飛び込んでくる。僕は反射的に愛しの人を抱き止めた。


「ふふっ。やっぱりこれが一番落ち着くー。最高ぅー」


 そう言って夏楓さんは僕の胸に頬を擦り付けてくる。その仕草に、僕は抑えきれなくなり、僕の首の高さにある夏楓さんのおでこに唇を落とした。


「夏楓。大好きだよ」

「っ……。うんありがとう。嬉しい」


 夏楓さんは顔を真っ赤にしながら、また僕の胸に頬を擦り付けるのだった。


 



 (にしても、今のセリフよく言えたな自分よ。それも呼び捨てとかぁー。めっちゃ恥ずいっつーの!)


 とまぁ、内心僕はそう叫んでいた。




 ☆☆☆


 夏楓さんのデレ、最高すぎるだろー!

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