25話 夏楓さんのどきどきお着替えタイムと奏音の本音
「では、こちらが試着をご要望されたお洋服です。何かあればお呼びください」
先に試着室の準備をしてくれていた村川さんから試着するものを受け取り、夏楓さんは靴を脱いで試着室に入っていった。
「じゃあ、僕は外で待っているので着替えが終わったら声を掛けてください」
そう言ったところで夏楓さんはカーテンから顔だけ出してこっちをニマニマした笑みで見てきた。
「別に中で私の着替えを見ててもいいんだよ? ふふっ」
「えっ? いやさすがにそれは……」
「大丈夫。さっきの店員さんも多少のイチャつきは良いって言ってくれてるし」
「……その根拠はいかに」
「あはは。で、どうする? 大好きな可愛いカノジョのお着替え、生で見る?」
「……正直、見たいのは山々ですけど、見たらいろいろ止まらなくなりそうなので止めておきます」
「奏音くん、正直だね。……えっち」
いやあの……自分からこの話題振っといて、罵倒するのはひどいですよ。そ、れ、にぃー、ちょっと顔を赤らめて恥ずかしそうにえっちとか言わないでください。可愛すぎますからぁーーー。
とまぁ、そんなやり取りをして、夏楓さんは大人しく一人で着替えを始めた。
僕は近くのベンチに腰を掛けて一息つく。
「ふぅー」
「あの方と一緒にいるのは相当お疲れになるのでは?」
久しぶりに訪れた休憩にくつろいでいると、手が空いているのか、村川さんが僕に話しかけてきた。
「あはは、そうですね。夏楓さんはパワフルな人なので」
「そのようですね。ですが、一緒にいるととても元気をもらえそうです」
「……それは、確かにです。夏楓さんにはいつも感謝しています」
「感謝、ですか?」
「はい。僕にとって夏楓さんは大事なカノジョであるとともに、絶対になくてはいけない存在なんです。自分で言うのもあれですけど、僕って昔から感情の起伏が激しくて繊細で、些細なことで気分が落ち込んじゃうことがあるんです。もちろん、そのおかげで感受性が豊かで助かっている分もあるんですが……。でも夏楓さんがいれば、一緒にいるだけで楽しくて、そんな心配もいらなくなるくらい楽しくて、綺麗で可愛くてお茶目でちょっとドジっ子な夏楓さんを見るのが大好きで。だから、いつも僕と一緒にいてくれてありがとうって心の中で思ってるんです。まぁ、本人の前では恥ずかしくてこんなこと言えないですけど」
「……本当にあの方が大好きなのですね」
「それはもちろん、世界で家族と友達と同じくらい、一番大好きな人です」
ーーー着替えている夏楓にも二人の会話は聞こえていた。奏音のいきなりの本音の吐露に、夏楓は思わず着替えの手を止めて聞き入ってしまう。そして全てを聞き終わって、足元から崩れ落ちてしまった。
(奏音くん、私のことそんな風に思ってたんだ……)
(嬉しいなぁ……。ていうか、ここで私だけが世界で一番大好きって言わないところ、他人思いで優しい奏音くんらしくて好きだなぁー……。でもね、奏音くん。キミが思っている以上に私はキミのことが好きなんだよ。だって、いつも私のことを見てくれて、私を大事にしてくれて、言ってほしい時に好きとか愛してるとか言ってくれて。そんなの、好きにならないわけないじゃん。えっちなことには恥ずかしがって奥手だけど、そんなところも全部全部大好きなの。……だから私の方こそありがとうだよ)
着替えなんかそっちのけで、しばらく夏楓は蕩けきった顔でその場に座り込んで、そんなことを心の中で呟いていた……。
☆☆☆
思ったより心が温かくなる回に仕上がった……
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