20話 素直な人が好き
来た電車に二人で乗り込んで、空いていた席に並んで座る。
「ねぇねぇ奏音くん。さっきはなんであんな強引なプレイをしたのかなぁ?」
夏楓さん、言い方……。変な意味に聞こえてしまうではないか。
「いや、なんか夏楓さんが周りの人の見せものになっているような気がして……」
「ふーん。つまり嫉妬かぁ。そうかぁ、そうかぁ。奏音くんが私のことで嫉妬かぁ」
「別に嫉妬なんかじゃ……」
そこまで言って、言葉に詰まる。自分でも分かってはいるのだ。先ほどの自分の行動が嫉妬から来たものだったということは。
「ふふっ。そこで言い淀んじゃったら、もう言い訳はできないね。ホント奏音くんは嘘がつけない人だねぇ。……そんなところも素敵で可愛いんだけどさ」
「素敵で可愛い」ってそれ褒めているのか。なんだか少しからかわれた気分。
「でもさ、やっぱり私は嘘つけない人のほうが私は好き。だってそれってつまり、正直で優しい人ってことじゃん。そういう人の方が安心するし、仲良くしたいって思う」
少し神妙な顔をして夏楓さんが言う。
前から感じていたことだけれど、夏楓さんは外見や動作は結構おちゃめだったりするが、中はスイッチが入れば真面目でしっかり考える人だ。
「自分で言うのもなんだけど、私、昔から結構告白されてさ、それもみんな下心があるんだろうなぁーって人ばっかりで。この人平気で嘘つきそうだとか、体目当てかなぁーとか。だから私、付き合うなら正直で優しくて、私、結構頑固だったりするから、そういうところも受け入れてくれるような王子様がいいなーなんて思ってたりしてたんだよね」
「……今まで頑固だなって感じたこと無かったですけど」
「そう? でも、もしかしたら、この先奏音くんを振り回しちゃうかもしれない……」
少し神妙な顔をして夏楓さんが言う。
「……大丈夫ですよ。僕も同じようなもんだし。それに、僕は夏楓さんのそういうところも含めて全部が好きですから」
われながら結構キザなことを言ったような……。
「っ……。そう。ありがとう奏音くん」
そう言って、さりげなく夏楓さんは手を重ねてくる。それに対して僕は握ることで返事をする。
「ふふっ。奏音くんの手は安心するなぁ」
「手なんかいつでも貸してあげますよ。だからもっと僕に甘えて頑固になって、夏楓さんの本性をもっと僕に見せてください」
「……言ったね? 私、結構重い女だよ」
「……そんなのもう知ってます。今更気にはしませんよ」
「……ありがとう、奏音くん。大好き」
「僕もです」
そうしているうちに、乗っていた電車は目的の駅に着く。僕の手を握ったまま夏楓さんは立つ。
「さて、奏音くんとの初デート、めいいいっぱい楽しみますかぁー」
その時にはもう夏楓さんのさっきまでの曇った顔は晴れていて、いつもの夏楓さんらしい綺麗な笑顔が咲いていた。
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