19話 女神様の降臨(?)

 そこには女神がいた。


 なんて馬鹿げたことを思いつくくらい、彼女は美しかった。駅前の騒がしい雰囲気に、一人舞い降りた女神のごとく。バックに噴水があるおかげで、更に女神感がアップしている。僕は目を奪われて思わず棒立ちしてしまう。麦色のペーパーハットをかぶり、白色の半袖のブラウス、空色のフレアスカートをはいて、手には小さな白色のポーチを持っている。圧倒的清楚&美人感が否応なしに醸し出されていた。ダンス部のセンターということもあり、スタイルの良さがしっかりと伝わってくる。


 しばらく眺めていると、夏楓さんは僕を見つけたのか、こちらに大きく手を振ってきた。いくら大人の美人感を醸し出していても、思わずな夏楓さんらしい年相応の動作をほほえましく思いながら、彼女の元へ駆け寄る。


「おはようございます。夏楓さん。早いですね。待ち合わせの時間までまだあるのに」

「おはよー、奏音くん。あはは、楽しみで早く来ちゃった。てへっ」


 そう言って、夏楓さんは自分の頭をコツンと叩く。あざといけれど、夏楓さんがやると、まったく違和感がなくて、その動作が愛おしいとさえ思えてしまう。


「あの、夏楓さん。その……今日の夏楓さん、めっちゃ綺麗です。さっき向こうで一目見たとき、びっくりしてしばらく眺めてたくらいです」

「っ……本当? 嬉しい! 頑張っておめかしした甲斐があったよ」

「じゃあ、行こうか。夏楓……」

「?! えっ。いま、呼び捨てにした? それもタメ口!」

「……はい。大好きな人をかっこよくエスコートしたいので頑張ってみました。……嫌でしたか?」

「っ……。はぅー、かっこよすぎ、ときめいちゃった。今日だけでも、そのままがいいな」

「……やっぱり恥ずかしいので、勘弁してください」

「えぇー。奏音くんのヘタレぇー。ぶーぶー」


 口をとがらせて不満を言う夏楓さん。でも少し顔が赤いのは、照れているのだろうか。


「にしても、うん、今日の奏音くんの格好もイケてる。惚れ直しちゃった♡」


 最高のスマイルで言われる。やばい、嬉しいのと夏楓さんを抱きしめたい欲が全身を駆け巡る。


「おいあの人、めっちゃ綺麗じゃん。モデルさんかな?」

「だなぁ。高嶺の花感半端ねぇーけど」


「見てみてあの人、めっちゃ綺麗! いいなぁー、私もあんな風になりたい」

「ほんとだ。めっちゃ美人」


 近くからそんな声が聞こえて、我に返る。どうやら夏楓さんが通行者から興味を惹かれているようだ。人だかりができそうで、僕は慌てて夏楓さんの手を引き、場所を移動する。


「きゃっ。奏音くんったら強引。……そういうところもかっこいいけど」


 あの……。このシチュエーションでときめくのやめてもらっても……。


「ごめんなさい、夏楓さん。夏楓さんが綺麗すぎて注目を浴びていたので。移動しましょう」


 そう言って、僕たちは駅ビルを通り、改札を抜け、来た電車に乗り込んだのだった。

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