16話 興奮気味な夏楓さん
「お待たせ」
制服に着替えた夏楓さんがやってくる。僕も既にまとめていた荷物を持って、部室の戸締りを確認し、電気を消す。廊下に出て、部室の鍵を閉める。そのまま職員室に向かう。
「今日は何してたの?」
廊下を歩きながら、隣から夏楓さんが聞いてくる。
「コンクールに出す作品を書いてました」
「えっ? コンクールに作品出すの?」
「はい。そのつもりです。たまにはそういうのもいいかなぁと」
「えー。すごい。出来たら読ませてね」
「はい。もちろん。最初に見せますね」
職員室の扉を開けて、二人して「お邪魔しまーす」と挨拶をする。入って左の窓側の方に、文芸部の顧問の榊原先生のデスクはある。
「榊原先生。部室の鍵を返しに来ました」
「お? 麻倉さんも一緒なのか。珍しい組み合わせだな」
榊原先生は、眼鏡をかけた中年の優しそうな国語科の男の先生で、僕の現代文の教師である。
「はい。奏音くんと私は”秘密”の関係なので」
「……なるほど」
え? 何それ。聞いてないんですけど。健全な彼氏彼女関係じゃないの? というか、先生も何で納得しているの?
「えっ。夏楓さん。それって……」
「ふふっ。それじゃ、先生。失礼しますね」
「気を付けて帰りなさい」
「はーい」
そう言って夏楓さんは僕を引っ張るように職員室から出る。
「夏楓さんって榊原先生と仲良いんですね」
「うん。うちのクラスの古典の先生だからね」
「にしても仲良すぎません? さすが人気者の夏楓さんって感じですけど」
「ええ。何それ嫉妬ぉ?」
「いや先生に嫉妬はしませんよ」
昇降口の靴箱で靴を履き替えながら言う。それなりに大きな声で話しているから、靴箱の大きな棚を一つ隔てた先の夏楓さんと会話ができる。やがて夏楓さんは僕より先に靴を履き替えたのか、僕の元へ来る。
二人で校門へ続く坂を下りながら、僕は他の下校中の生徒の視線を感じ取る。付き合い始めてから、他の生徒からの視線を良く感じるようになった。まぁ夏楓さんほどの美人で人気者と一緒に歩いている時点で仕方のないことなのだが。それにもう慣れたし。
「でさ、初デートどこ行く?」
少し興奮気味に夏楓さんが聞いてくる。
「僕は夏楓さんの行きたいところでいいですよ」
「えーっと、じゃあお家の方が誰もいないときの奏音くんのお家がいい!」
「へっ?」
予想外の提案に少し驚く。そして、何か企んでそうな夏楓さんの顔。
「にしし。さては奏音くん、えっちなこと期待したでしょー」
なるほど、その顔はそういうことか。ならば仕返しに……。
「……そうですね。そろそろ夏楓さんとそういうことしてみたいなぁーとは思っていました」
「えっ?」
「夏楓さんも乗り気みたいだし、お家デートってのもありだなぁ」
意地悪く、夏楓さんの胸を見ながらそう言ってみる。
「えっ……あ。えっ。……いや、ちょっと恥ずかしいよぉ」
夏楓さんは、この答えを予想してなかったのか、頬をピンク色に染めながら、慌てて腕で前を隠すようにする。
「あはは。冗談ですよ。冗談」
「……奏音くんの意地悪。えっち。変態」
怒ったように、そして拗ねたように夏楓さんはそっぽを向く。
「いや。さすがに冗談ですって」
そう言うと、夏楓さんは僕の耳に顔を近づけて、こう言うのだった。
「……でも、いつかは、ね。だからもう少し待ってて」
自分の顔が一気に熱くなるのを感じる。夏楓さんを見れば、彼女も恥ずかしかったのか、顔を真っ赤に染めていて。結局二人して、気まずくなるのだった……。
☆☆☆
初心だねぇ~二人とも()
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