13話 憧れ

 ★東城 萌 視点★


 夏楓先輩たちのダンスを見ていると、自分のレベルの低さを嫌でも感じる。ダンス部のセンターは言わずもがな夏楓先輩。そして沙那先輩がさらに夏楓先輩のダンスを引き立たせるようなパフォーマンスをする。素人の私からみてもこの二人は、他の先輩たちよりも一つ抜きんでていることぐらいわかる。


 去年、受験するにあたってこの学校の視察に来た時、たまたまダンス部の発表を見る機会があって、その時、私は心に決めた。絶対この高校に合格してダンス部に入ってやる、と。思えばあの時センターで一際輝いていたのは夏楓先輩たちだったのかもしれない。


「ワン、ツー、スリー、ターン」


 先にお手本を見せた夏楓先輩の声と共に修正点のある他の一年生たちが踊る。今年は何故か三年生の部員がおらず、部長は二年生の夏楓先輩が務めている。そして、わたしは一年生の中では覚えが良く出来る方で、今は夏楓先輩が範囲を決めた実技テストをなんなくクリアし小休憩をしている。


「萌は覚えが良くて助かるよ。はいこれ」


 部室の壁にもたれて座っている私の上から声がする。見上げれば、沙那先輩がスポーツドリンクを差し出してくれていた。


「ありがとうございます」


 ありがたく受け取り、一口飲む。


「にしても、夏楓のダンスはホント綺麗だよなぁ」

「そうですね。私の憧れです」

「憧れ? ふふっ。そうか。萌の憧れは夏楓か」

「正確に言えば、夏楓先輩と沙那先輩のダンスですかね」

「? 私もなのか?」

「はい。お二人のダンスは、お互いを理解し、お互いを輝かせあって、そうやって綺麗で美しいダンスに仕上がっていると思うんです。どちらも欠けてはいけなくて、でも一緒だと、それはもう完璧で。そんなダンスっていいなぁって思うんですよね」

「……そうか。そんなこと言ってくれるなんて嬉しいな」


 かっこよく沙那先輩が微笑む。


「だからこそ、私はお二人を超えてみせます。わたしだけができるダンスを目指して、かっこよかったよって湊音に褒めてもらって、それが私の目指す”青春”です」


 沙那先輩の瞳を見つめてそう言い切る。一瞬沙那先輩は驚いたように目を見開くが、やがて熱のこもった瞳をして、


「そうか。だったら私も逃げ切るために更に頑張らなくちゃだな」


 と言ったのだった。


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