7話 ようこそ部室へ①

 へなへなに歩く夏楓さんを沙那さんに任せ、教室へ戻る。

 昼ご飯を食べて眠くなるものの、授業は気合でしっかり受ける。なんやかんやで授業を聞いていると後々のテスト勉強が楽になるからだ。まぁどこぞの湊音くんは爆睡してるが、気にしない。

 そうして放課後が訪れるやいなや、生徒は部活やら帰宅やらでわっと教室から出ていく。


「奏音、今日どうする? どっか行くか?」


 湊音が萌を連れて僕の席に来る。


「今日はパス。部活やりたいから。二人でデートでもして来い」

「お。いいのか。じゃあ、萌。行こうか」


 二人仲良く教室を出ていく後姿を見送って、僕は文芸部の部室へ向かう。


「奏音くーん」


 部室の前で愛しの女性が大きく手を振っている。振るたびに綺麗な長い黒髪が揺れる。うん、綺麗だ。


「どうぞ」

「お邪魔しまーす」


 部室の鍵を開け、夏楓さんを招き入れる。部室の鍵は顧問の先生から預かっていて、ほぼ私物と化しているために、いつでも活動できるし、部室も使える。今日は本来ならば活動日ではないが、今日はダンス部が部活が休みで、久しぶりに夏楓さんが文芸部を覗きたいということで、臨時活動をすることとなったのだ。


「コーヒーと紅茶どっちがいいですか」

「紅茶で」

「了解です」


 夏楓さんは部室の奥にある椅子に荷物を下ろし、そそくさと本棚を漁り始める。部室の壁はほぼ本棚で埋まっている。気になった本が見つかったのか、小さなソファーに座って読み始めた。僕は自分のデスクにあるパソコンを起動し、USBメモリを接続する。このパソコンは学校が所持しているもので、部活の用具としてとりあえず一年間借り受けたものだ。よって作品のデータはこのUSBメモリに保存している。

 お湯が沸けた。腰の高さほどの引き出しからストックしておいた紅茶の茶葉を二つ取り出し、ガラス製のカップにそそぐ。同時に取り出していた和菓子を何個か添え、真剣に本を読んでいる夏楓さんに渡す。


「ありがとう」


満面の笑顔がまぶしい。

綺麗な人だなと改めて思った。



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