3話 馴れ初め 2

「これからもキミの作品読ませてよ」


満面の笑みでその人は言った。

あぁ。単純だとは分かっている。でもやっと見つけたんだ……。僕の小説に何かしらのモノを感じてくれる人が。


ぐすっ……。涙が止まらない。とてつもなく嬉しかった。安心した。


「ねぇ。どうしたの? 何で泣いているの?」


僕が泣いているのに気づくと、最初は驚くような素振りを見せたけれども、やがて彼女は優しく僕に語りかけた。


「あ……」


女性に泣き顔を見られるなんて我ながら恥ずかしい。


「で。どうして泣いてたの?」

「それは……。やっと見つけたんです。僕の小説を読んで笑いものにしなかった人を。楽しそうに感想をのべてくれる人を。だから嬉しくてつい…」

「……。そう。私がキミの初めてをもらっちゃったのかぁ……」


なんかいやらしく聞こえるのは気のせいか。


「でもさ、さっき言ったことは全部本音。ホントに君の小説は面白かったよ。だからこれからもたくさん書いて私に読ませてよ」


「……はいっ!」


それが僕と夏楓さんの馴れ初め。その後、これが恋であると気づいた僕から告白して付き合い始めたのだった。



「私のためにこれを書いたの?」

「まぁでも書くの楽しかったですし」

「そうなんだ。私のために……」


なんか夏楓さんめっちゃ楽しそう。今までの会話にそんなに楽しそうにする要素あったっけ? なんなら書いた小説の原稿、めっちゃ大事そうに抱いてるし。なんかいいなぁ。そこ変わってよ原稿くん()


「無自覚惚気って怖いねぇ」


沙那さんがそう言っていたような気がする。

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