2話 馴れ初め 1

ご飯は残さず食べる。幼い頃から母親にそう言われてきた。事実、昔から僕は好き嫌いが少ない方である。まぁ、夏楓さんの弁当はおいしすぎる(いきなりの惚気)ので、すぐに食べてしまうのだが。


「今日も美味しかったです。ご馳走様でした」

「うん。お粗末さまです」

そう言って夏楓さんは弁当箱をお弁当バックにしまう。本当は洗って返すべきなのだろうが、そう言うといつも

「私が洗うから気にしないで」

と言われてしまうのである。まぁ夏楓さんがそう言うならそれでいいのだが。


「ところでこれ。読んだよ」


そう言って夏楓さんはクリップでとめられた数十枚のプリントを僕に渡す。


「どうでしたか?」

「うん。さすが奏音くん。めっちゃ感動した」


食い気味に夏楓さんが言う。そう。僕は自分の書いた小説を夏楓さんに読んでもらって感想を言ってもらっていた。今回で2回目である。


「ありがとうございます」


好きな人に自分の書いた小説を読んでもらうのは少し恥ずかしい気もするが、夏楓さんは僕の小説を読みたいと言って聞かずに、書き上げたら必ず最初に読んでくれるのだった。


「ヒューマンラブコメなんて大層なものよく書けるわよねぇ」


と横から沙那さんが言う。


「僕も初めてラブコメ描きましたよ。折角読んでもらうんだから夏楓さんの好きそうなジャンルにしようと思って」

「え? 何。ここでも惚気?」


ジト目で僕を見る沙那さん。


「いや。違いますよ。でも僕めちゃくちゃ嬉しかったんです。夏楓さんに初めて話しかけられて、小説読んでもらって、めちゃくちゃ楽しそうに感想を述べてくれたので。次は夏楓さんの好きなジャンルで書こうって決めてたんですよ」


僕と夏楓さんの馴れ初め。それは、夏楓さんが校内に置いてある文芸部の部誌を読んで僕に感想を述べてくれたところから始まる……。



「文芸部ってここ?」


部室の扉が開くなり、入ってきた美人の先輩らしき人がそう言った。


「? はい。そうですが……」

「じゃあ、これ書いたのキミ?」


そう言って、つい最近宣伝で書いた部誌を見せてくる。短編の恋愛小説を書いたんだっけ? 廃部危機脱却のために部員集めようとして、人受けの良さそうな恋愛ものを書いた記憶がある。


「あー。はいそうですが」

「これ読んだよ!! めちゃくちゃ感動した。主人公とヒロインのすれ違う恋。そしてお互い、サイコーの友達の手助けの元、両片想いが両思いだと気づくシーンなんてもう胸がきゅーってなったよ!!」


その人はめちゃくちゃ楽しそうに感想を述べてくれた。満面の笑みで言ってくれたのだ。その時僕は心の中でとても熱い何かを感じたのだ。昔から小説を書く僕のことをみんな笑いものにしてきた。陰キャオタクだのなんだの。でもこの人は……。






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