第7話 「探偵旅行~御嵩屋の怪事件~」

「龍二ーまだなの?」



急かすようにして古水は言う。ガタガタと山道を進んでいくバスの中には俺たち6人しかいない。



「あとちょっとだから我慢しろって」


「そうだよ、御代ちゃん」



古水はそう言われると顔を膨らませて不満そうな顔をする。そんな顔を見てきしみやは堪えるようにして笑った。そんなバスの外には、目的地とする神薙かんなぎ村が木々の間から顔を覗かせる。そう俺たちは今、有名高級旅館「御嵩屋みたけや」に向かっているのだ。





なかなかに暑い。俺はそう思いながら、日差しを隠すようにして手庇をし、神薙村を一望する。この村は大体東京ドーム一個分くらいの大きさであり、近くには仏山ほとけやまと呼ばれる大きな山が存在感を表すように佇んでいる。そして、その山の麓には御嵩屋と白色の建物が見えた。神薙村の人口は約400人程度、そのうちの半分以上が高齢者である。そのため、今見えるほとんどの家は空き家であるらしい。


だが、この限界集落とも言える村に4年前、希望の光が差し込んだ。高級旅館「御嵩屋」がこの村にオープンしたからである。そしてこれを発端にして観光業が発展し、この村はまた息を吹き返した。まるで夢物語のような話だ。そして俺たちは、バスから降りた。雨が降ったのだろうか?地面は少しぬかるんでいる。



(まあ山の天気は変わりやすいって言うからな)



そして俺たちは目的地の御嵩屋まで向かう。すると途中、右手側にあった染物屋から老婆が顔を出し声をかけてきた。



「神薙にいらっしゃい」


「こんにちは」



その返事に対して俺たちはお辞儀をする。老婆は嬉しそうに顔をニコニコさせている。



「御嵩屋に泊まりに来たのかい?」


「はい、そうなんです。」


「そうかい、あそこはいい所じゃ楽しんできなさい」



老婆はそう話し近くのベンチに腰を掛け、岸宮の手を取った。



「ほんでまたえらいべっぴんさんが来たねー」


「あ、ありがとうございます」


「すみません、ですか?」


「そうよ、最近御嵩屋で働き始めた子も奇麗な子だったわよー」



御嵩屋か、事件の直後でも働き始める人がいるのだな。俺は鼻先を人差し指で擦りながらそう考える。左を見ると岸宮は少し不機嫌そうな顔をしていた。俺は自分の発っした言葉に深く釘を打つ。そして、俺たちは老婆に挨拶をしてまた御嵩屋に向かった。


御嵩屋に着くと共に俺たちは「おー」と声を上げる。それは館があまりにも豪華であったからだ。流石、有名高級旅館と言われているだけある。こんな所に一般高校生が来るのは場違いだ。そうして俺たちは御嵩屋の中に入った。





「お待ちしていました。探偵様」



御嵩屋に着くや否や、女将さんが膝をついて頭を下げていた。俺たちは見慣れない出来事に少し戸惑ったが、女将さんは平然とそのまま俺たちを応接室に案内した。



「私は当館御嵩屋の女将「東雲春しののめはる」にございます」



そう言って女将さんはまた頭を下げる。それに答えるようにして俺たちも自己紹介をした。



「それで、俺たちまだ依頼内容を聞いてないんだが」


「そういえばそうだったな、じゃあさっそく……」



そういうと、龍二は鞄から資料を出す。すると、そこに古水が割って入った。



「ねえ今から依頼の話をするんでしょ?、なら私たちは村の方に行っていいかな?さっき気になるお店を見つけたの」


「ああ行っていいぞ。あくまでだからな」



龍二は顔をニコニコさせながら言う。どうやらこいつも旅行を楽しみにしているようだ。俺はその場で「はー」とため息をつく。



「でしたら、先に客室に案内します。椿ちゃん」


「は、はい」



女将さんがそう名前を呼ぶと奥の部屋の扉が開く。そこには名の通りの髪色をしたか弱そうな女性が立っていた。



「椿ちゃん、この方たちをお願い」


「はい、分かりました。こ、こちらです」



緊張しているのだろうか?彼女は慣れていないような足取りで歩いていく。そういえばさっき会った染物屋の婆さんが「最近新しい子が入った」的なことを言っていたな。俺はそう思い返した。すると少し歩いた姫ちゃんが立ち止まり、俺の隣に座っていた岸宮に声をかけた。



「あれ、岸宮さん行かないんですか?」


「うん、私は愁君たちを手伝おうと思って」


「大丈夫だよ岸宮、せっかく来たんだから行って来な?」



俺はそう岸宮に話すが、彼女はゆっくりと首を振る。



「いいえ、気にしないでください愁君。私はただこの事件のことが気になるだけなので」


「そうか…」


「じゃあ私たち行ってくるね、早く終わらせちゃいなよ!」



そういって古水たちは椿さんについって行った。そうだな、さっさとこの事件を終わらせて楽しい旅行にしよう。俺はそう決意する。



「では、本題に入りましょう。まず女将さん、事件の事を話してもらえますか?」


「はい…実は三か月ほど前、私はいつも通りお客様の接客をしていました」





「ようこそいらっしゃいました。客室はこちらでございます」



そうやって私はお客様を客室に案内する。しかしその時だ、甲高い女性の声が館に響き渡った。私は急いでその声の場所に向かう。すると、その部屋の中には窓の方を見ながら腰を抜かして座り込んでいる女性がいた。



「大丈夫ですか!何があったんですか?」



私は彼女の肩を掴みながら話すが、彼女は窓の方に指をさすばかりで返事をしない。気になった私は立ち上がって窓の外を見た。するとそこには思いがけない光景があった。



「なにあれ……」



外には体から翼を生やし、赤いお面を身に着けた正しく天狗と呼ばれる生物が翼を羽ばたかせていた。私は予想外の光景に言葉が出ない。そしてその日からだった、このようなが起きるようになったのは……



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