第六話 「超過能力」
「どのような状況でしょうか」
警察官は私たちにそう質問し、私はそれに対して簡潔に答える。
「さっき伝えた三人はもう倉庫の中です」
「九重愁くんと和泉龍二くん、それと猫屋敷空さんですね。分かりました、すぐ向かいます」
「いや、でも愁が警察は待機させてろって…」
「大丈夫です、最低限行けるところまでですから。おい、行くぞ」
そう言うと警察官たちは倉庫に向かって走って行った。辺りはすっかり暗くなり、街灯の明かりが点々と灯り始める。きしみんはさっきからずっと黙ったままだ。
「ねえ、きしみん…」
「何で愁くんにあんなお願いをしたか、ですよね?」
「うん、そうなんだけど。私が気になったのは何であの時まるで龍二や猫屋敷さんが居るのを知ってたような口ぶりだったの?もしかして愁に事前から聞いていたとか?」
私の返答にきしみんは首を横に振り、真相を口にした。
「私は御代ちゃん、あなたと同じなんです」
「同じ?」
「はい。御代ちゃん、あなたは私と同じ能力者ですよね?能力は『対象の者の時間を止めることができる』」
私はきしみんからの予想外な返答に言葉を失う。
「何でそれを…ど、何処で気付いたの?」
きしみんは私の疑問に対してゆっくりと答えてくれた。どうやらきしみんは最初から私のことを疑っていたらしく、確証を得たのは私が自殺をしようとした日。つまり愁にフラれて逃げ出すためにその能力を使った日ということだ。なんだろう、凄い恥ずかしい気がする…
「は〜すべてお見通しだったわけか。じゃあ、あの時私が屋上に行くって分かったのはきしみんの能力ってこと?」
「その通りです。私の能力は『不規則な未来を見る事ができる』です」
「未来が見えちゃうの!? すご!」
「まあでも、自分の意思で未来を見ることは出来ないんで予測できないって事も多々あるんですけどね」
「あ〜だから『不規則』なんだ」
「そゆことです」
きしみんは微笑みながら街灯を見る。街灯には虫たちが羽音を立てて飛び交っていた。まさか同じ『能力を持った人間』がこんな身近に居たなんて……意外と他にも居るかもしれない。
「ねえきしみん、私たち以外にも居たりするの?」
「はい、一人だけなら」
「それは誰なの?」
「愁くんです。能力は予想ですが、きっと『未来を少し良い方向に傾ける』能力だと思います」
「『未来を少し良い方向に傾ける』か…じゃあ、きしみんがあの時怒鳴ってでも阻止したのは良くない未来が見えたからで、未来を変えるために愁と行かせたってこと?」
「はい、合ってます。でも結果的には愁くんにひどいことをしてしまいました…」
悲しそうにきしみんは俯く。そんな彼女に私は言葉をかける。
「大丈夫だよ! 愁にこのことを教えれば良いんだから。いくら愁でもきしみんの言う事なんだから理解してくれるって」
「お気遣いありがとうございます。でもそれはダメなんです」
「なんで?」
「そうですね〜」
きしみんは人差し指をピンッと立てる。
「考えてみてください御代ちゃん。もし愁くんの立場で私の力の話を聞いたらどう思います?」
「う〜ん。『不規則な未来を見る』『未来を少し良い方向に傾ける』それらの事を考えて~、分かんないや」
「あはは、すみません。急に言っても分かんないですよね。結論から言うと、愁くんは私にただ利用されてたと思ってしまうんじゃないかという事です」
(そんなことはないと思うけどな~)
流石にきしみんの考えすぎじゃないだろうか。愁ならそんなことは思わないはずだ。なんなら愁は喜ぶ気がする。でもきしみんの立場からしたら気にかけてしまうことだろう。
「それで実際、この力って何なの?」
「これは私の仮説なんですけど。人間には基礎能力というものがありますよね?例えば、筋力だったり瞬発力。他には思考力や想像力といったものなど様々です。そしてその力の値も上限も人によってそれぞれ個人差がある。まあ言ったら『勉強は得意だけど運動は苦手』みたいな感じです。」
「なるほど、愁ってことね」
「あれ? 愁くんって勉強も運動も出来ますよね?」
「きしみん聞いてないの?テストの点数が良いのはカンニングしてるからよ」
「愁くんカンニングしてるんですか?」
「うん、なんかあいつカンニング得意らしいのよね。昔からよく話してたわ」
「それは誇って良いことなのでしょうか……」
きしみんは薄く笑いながら言う。確かに誇るべきことではない。
「話が脱線しちゃったね、続きをどうぞ」
「はいそうですね。ええっと何処まで話しましたっけ?」
「えっと確か『人間には基礎能力があって、その力の値も上限にも個人差がある』だよね?」
「そうでした。今言われた通り人間の力には個人差があります。ですが能力を持った人間はそうではないんです」
「というと?」
「能力を持った人間の力はその能力値の延長線上の力なんです」
「延長線上?それならただ頭が人よりも何千倍良いとかって話じゃないの?」
「いいえ、延長線上というのは上限を超えた先、つまり能力を持った人間は元々桁外れであった能力値の上限を越した者、ということです。私はそれを『超過能力』と呼んでいます」
「超過能力か……そのままだね」
「うぅ、私昔からネーミングセンス無いって言われるんです…」
「ごめんごめん、分かりやすくていいと思うよ」
そう私が謝るとズボンの尻ポケットに入れていたスマホが鳴り、愁から『終わったぞ』とメールが届いていた。私はきしみんを連れて警察官たちのところに向かう。
♢
あれから数日、気づけば一学期が終わり俺たちは夏休みに入った。
「どうしたのお兄ちゃん、早起きだね…」
楓が眠そうな目を擦りながら階段を降りて来る。この日俺は珍しく早起きをしていた。
「俺今から龍二のところに行ってくるから」
「和泉さんのとこ?」
「そう、何か話しがあるらしい。昼には帰るよ」
そう言いながら俺は靴紐を結ぶ。楓は興味なさそうに手で寝癖をとかす。
「お前余裕そうにしてるけど部活あるんじゃないのか?」
「大丈夫だよー今日は水曜日だから部活は無いよ」
「そうか、ちなみに今日は木曜日だぞ。じゃあ俺もう行くから」
「うん、行ってらっしゃーい……え、今日って木曜日?」
今時日にちを間違えるとは楓もまだ子供だな。俺はそう思いながら龍二の住む榎田探偵事務所に向かう。空はまだ太陽が出きっていなく少し暗い、にしても龍二はなんでこんな早朝に呼び出すんだ、俺だって暇じゃないんだぞ。どうせ話しなんてろくな事じゃない。俺はため息をつきながらも電車に乗った。
♢
「龍二来てやったぞ。って居ないじゃないか。なんだよ、自分から呼び出しといて」
事務所に龍二は居なかった。榎田さんも居ない、というか榎田さんとはまず一回も話したことがない。龍二曰く眼鏡を掛けた好青年という感じの見た目らしいが、30歳未満の人に好青年という言葉は使っていいのか?
俺は疑問を膨らませた。これにより好奇心を抑えきれなくなった俺は榎田さんのデスクを調べる。しかし目ぼしい物は何も置いていない。
「何もないか、だとすると…」
俺はそれに視線を向ける。それというのは資料室のことだ。きっと資料室なら今までの依頼に榎田さんの情報があるかもしれない。
いつもの俺ならこんな事はしないが、今仕方がないであろう。俺はそう意味不明なことを思いながら資料室の扉を開けた。
部屋の中は今までの依頼の記録が入っているであろうファイルが数多く置かれている。少し部屋が埃っぽい、あまり使っていないのか?引き続き俺は部屋を散策する。するとそこにはアンティーク調なこの事務所には合わないデスクが一つ佇んでいた。
「この机不自然だな」
俺はその机に向かう。すると卓上には少し日焼けした手紙が置かれていた。
「手紙?榎田さんのか?」
手紙の表には何も書かれていないため誰がいつ送ったものなのかはぱっと見ではわからない。まあきっと榎田さんの物だろう、ということは俺も見て良いということだ。
そうして俺は手紙に貼ってあるシールを剥がそうとした、その時だった。階段の方から聞き慣れた鼻歌が聞こえる。ちょうど龍二が帰宅してきてしまったのだ。俺はとっさに手紙をポケットの中に入れ、資料室を出た。
「なんだ愁もう来てたのか」
「ま、まあな」
龍二はそう言いながら袋の中のコーヒーを二つ机に置いた。
「ほらよ」
「気が利くな」
俺はそう言いながら口にやる。クーラーで涼しくなった部屋にコーヒーの香ばしい匂い漂う。
「それで話ってなんだ?」
龍二はコーヒーをゆっくり机に置き話す。
「ふ、ふ、ふ、愁くん、君は能力を信じるかね」
「……話はそれだけか、それだけなら帰らせてもらうぞ」
「すまんすまん、ふざけてるわけではないんだ」
あれでふざけてないは嘘だろ。俺はそう思ったが面倒なので言わないことにした。
「単刀直入に言うと俺は人が嘘をついているかどうかが分かるようになったんだ」
今まで散々中卒のことをネタにしてきたが、この領域に来てしまったらもう馬鹿にすることはできない。完全に龍二は壊れてしまったのだ。
「おいお前ちゃんと聞いてんのか?」
「うん、お前が壊れたことは分かったよ」
「だからほんとだって」
その後、龍二から試すように言われた俺は嘘をついているかついていないかのゲームをした。結果は見事に龍二の全勝、どうやら能力というのは本当なのだろう。
「この力は神田の時に宿ったんだ」
「モデルガンの時か、あれは本当に焦ったよ」
他人事のように龍二は髪を撫でた。
「なあ龍二、このこと他の誰かに言ったか?」
「ああ、空には話したぞ」
「そうか…まあ猫屋敷さんなら良いか」
「どういうことだ?」
「そのままだよ、このことはもう人に言うな。それと能力も使うな」
「なんでだよ、せっかくの力なんだぞ?損じゃないか」
「損でも駄目だ。人に言ったら悪用されるかもしれないし、それに強力な力には代償がつきものだろ?」
龍二は深く考え込む。確かに龍二の能力は素晴らしいものだ。でも俺はそんな力のせいで龍二が傷つく姿は見たくない。
「分かったよ、この力の事はもう言わない。でもこの力の使用に関しては使うべき時に使うことにする。それならいいよな?」
「ああ、俺の我儘を聞いてくれてありがとう」
照れくさそうな顔をしながら龍二はコーヒーを啜る。俺は改めて良い友を持ったと実感した。
「じゃあ俺はもう行くよ」
「いや待て」
「なんだ?話は終わったんじゃないのか?」
「それがもう一つあるんだ」
荷物を持って立ち上がった俺を龍二は座らせる。そして龍二は机に乗り出しながら言った。
「皆で『
-----------------
ご視聴ありがとうございます!
フォロー、応援等お願いいたします!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます