第51話 花吹雪
暫く歩いた先に桜並木があり、二人で木の下をゆっくり歩く。
桜はもうだいぶ散ってしまっていたけれど、まだ残る花びらが風に乗ってひらひらと舞う光景は美しかった。
「綺麗ですね・・・」
桜の時期は仕事に追われて、花見どころじゃなかった。
というか、ゆっくり桜を見るのも数年ぶりかも・・・。
「満開には間に合わなかったけど、花吹雪もいいな」
「本当にきれい・・・。連れてきてくれてありがとうございます」
「俺が一緒に来たかっただけだけど(笑)
すんげえ急だったのに一緒に来てくれてさ。こっちが嬉しいよ。サンキューな」
繋いだ手を持ち上げられ、親指の爪にキスを落とされる。
「っ」
すぃっと流した視線が私を捉え、その瞬間、息をするのを忘れた。
そんな流し目、反則。
色っぽい視線に晒された顔は熱いし、胸はドキドキどころかバックバク。
「ははっ」
何も言えなくなった私を見て、桜城さんが突然笑い出す。
「えっ?」
私、何かした?
桜城さんの笑いの意味が分からず無言で見つめれば笑顔のまま「悪い」と謝られて、ますます意味が分からない。
「・・・私、何かおかしな事しました?」
思い切って訊いてみると、「いや、ごめん。ちょっと嬉しかっただけだから」とまたもや分からない答えが返ってきて、私は困惑するばかりだ。
「いや・・・いちいち俺の言葉とか視線とかで反応してくれるからさ。
本当に俺の事好きでいてくれてんだなって、嬉しくなっちゃっただけ」
「・・・」
本当に好きでいてくれてんだな、って・・・。
どういう意味なんだろう。
そりゃ、会社で他の女子と同じように騒いでたら同じ部署だし仕事もしずらいだろうしって、極力そういう感情は出さないようにしてたけど。
私、ちゃんと言ったのにな。
「俺さぁ、こうして付き合える事になって柄にも無く浮かれてんの。
薫はほら、社内の分かりやすく騒いでくれる女の子とは反応が違うし俺の事どう思ってんのかも分かんなかったかったから、距離を縮めようって決心するまでも時間掛かったし、部下としても勿論可愛いから下手に動いて気まずい関係にもなりたくなかったからさ。
ずーっと一人で悶々としてただけに、今こうしてる瞬間が嬉しくてしょうがないわけ」
「・・・桜城さん・・」
そんなの。
嬉しいのなんて、私だって同じ。
そんな事言ってもらえて、私の方が嬉しくて泣きそうです・・・。
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