第50話 欲張り
全部を美味しく食べて桜城さんがお会計をするのを少し離れた場所で待っていた。
交通費を出してもらってるから、ここは私が出しますと言ったのに
「俺が誘ったんだし、出させてよ(笑)」と財布を開けさせてはもらえなかった。
桜城さんの応対をしているレジの女性を見れば、頬が赤くなってるのがここからでも分かる。
あのキラースマイルで「ごちそうさま」とでも言ってるんですかね?
お会計が済み桜城さんがこっちに歩いてくる後ろで、レジのお姉さんが私をじろじろ見てる。
まあね?分かりますよ。こんな素敵な人がどんな女を連れてるか気になりますよね。
すいませんね、普通な女子で。
こんなの、会社で慣れっこ。
聞こえるように嫌味を言われないだけまだマシ。
・・・・なーんて心の内は絶対見せず、「行こうか」と差し出された手に「はい」と頷いてそっと手を重ねる。
店を出て、「美味しかったね」と微笑まれればさっきのお姉さんの事など一瞬で吹き飛んだ。
「30分くらい歩いても大丈夫?足痛くならないかな・・・」
5分くらい歩いて遠くに桜の木が見えてきた時、桜城さんが心配そうに訊いてくる。
優しい。
そう、元々桜城さんは優しい。
仕事にはとても厳しいけど、それ以外では誰にでも。
髪型とかメイクとか外見的な事にはものすごく疎いけど、大きな荷物を持ってるとか、顔色が悪い子なんかにはすぐ気付いて声を掛けてる。
だから会社の女子はみんな桜城さんが大好きだ。
そんなの桜城さんが出向してきた2年前からずっと変わらない事なのに、今更気になってしょうがない。
たった1日で欲張りになってるんだな・・・。
「どうした?もしかしてもう足、痛かったか?」
「あ、ううん。・・・桜城さんが優しいなーって、考えてただけです。
足は大丈夫。桜、楽しみです」
「ははっ。優しいって(笑) 仕事中は鬼なのにー、って?」
「まあ・・仕事中はそうですけど(笑)でも桜城さん、基本女子に優しいですよね」
不安、って言うわけでもないけれど。
「一番優しくしたいのは薫だけどね?足、大丈夫そうなら行こうか」
きゅ、と手を握り速度を合わせて歩いてくれる桜城さん。
視線を合わせて微笑まれる度『好き』が大きくなる。
ココロが、桜城さんへの恋でいっぱい。
こんなの、初めてかもしれない。
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