第44話 王子
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「おー、ネットで見たとおり。結構きれいだね」
荷物をソファの脇に置いた桜城さんは、ぐーっと伸びをして、それから厚手のカーテンを開けた。
「ま、ロケーションは駅だけど(笑)
どうですか? こんな感じで良かった?」
くるりと振り向いた桜城さんが少しだけ首を傾げて訊いてくる。
その姿がもう素敵で。
出窓に腰かけたままにっこり微笑まれ、思わず見惚れて言葉に詰まった。
「・・・薫?」
ううう。
そうそう名前呼びには慣れない。
どうしても顔が熱くなる。
アラサーだというのに、桜城王子の前ではまるで純情女子高生のように赤くなってしまうこのほっぺが憎らしい。
「おい?薫? 疲れた?」
出窓から立ち上がった桜城さんが怪訝そうに屈みこんで私の顔を覗き込むまで彼を見つめ続けていた私は、急に至近距離になった綺麗な顔に驚いて「うわあ!」とコントのようにのけぞり、更にはそのまま後ろに尻もちをつくという色気ゼロな反応をしてしまった。
「大丈夫? ほら」
はう・・。
手を差し伸べてくれるその仕草も王子感ハンパなくて、桜城さんの手に乗せた自分の手が微かに震えている。
ぐっと引っ張り上げてくれる力はとても強くて、私をすっと立たせてくれた。
「ありがとうございます・・・」
「いや? びっくりさせたの俺だし。でも、「うわあ!」はちょっと傷つくなー」
「や・・すみません。ぼーっとしていて」
ええ、ぼーっと、王子を見てました。
「荷物整理したら少し休む? 疲れたよな」
私の頭をぽんぽんした後、くるりと回ってトランクの上に置きっぱなしだった私のボストンを持った桜城さん。
「ベッド、どっち使う? 俺はどっちでもいい人だから好きな方選んでいいよ」
そう言ってくれるのに甘えて窓際を選ぶと、そこに私のバッグをそっと置いてくれた。
ここには1泊だけだから明日着る服一式だけをバッグから取り出しハンガーに掛ける。
コットンのシャツにゆったりした膝上丈のロングチュニックに七分丈レギンス。チュニックの色は綺麗目な淡い群青色。
それに二重に巻く細いベルトを合わせれば少しは締まって見えるかと持ってきた。
パーカーは持って来た服どれにでも合うように白にしたから、何があっても大丈夫。
「それ、綺麗な色だな。似合いそう」
「ありがとうございます。桜の色にも映えるかと思って・・」
「うん。いいね」
「・・っ」
にっこり微笑むその顔が「いいね」です桜城さん・・・。
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