第42話 意地悪おばさんの名前



これが、仕事中は鬼とも思った部長なの!?と叫びたくなる程に甘い言葉を並べ立てられ、もう頭から湯気が出そう。

目的地到着までの数時間ずっとこれが続いたら、電車を降りる頃には私は溶けたバターのようにトロトロになってるんじゃないかしら。

そんな事を思いながら窓の外を見れば、其処此処に見える桜の木は葉桜どころか新緑といっていいほど。

これはこれで青々とした緑が綺麗だけど、これから向かうところでは今年ロクに愛でる事もなかった桜が咲いているという。


「・・・桜、楽しみです」

「うん。俺も今年は花見できなかったから楽しみ。ゆっくり散策しよう?」

「・・・手を繋いで?」

「ん? ん(笑) これでもかって程に繋ぎまくってやるよ?(笑)」

「繋ぎまくってって・・・手、2つしか無いですし(笑) 両手で手を繋いだら歩けないですよ(笑)」

「ハイジとペーターみたいにグルグルする?」

「え?」

「あれ?知らない? 『アルプスの少女ハイジ』。CMでやってるじゃん。

俺は昔アニメも見たけどー(笑)」

「ああ!一瞬何の事かと思いましたよ。私も昔保育園でビデオ見ましたよ。

もうね!ロッテンマイヤーさんが大嫌いでした!」

「・・・ロッテンマイヤー・・・?」

「クララのお世話する意地悪おばさんです」

「ああ!よくそんな名前覚えてるなー(笑)俺、ペーターとハイジとクララしか覚えてない。

じゃあさ・・・・・」


最初はなんとなく風流な話題だった筈なのに、気付けば昔見た漫画やアニメの話で盛り上がりあっという間に目的地へ。

いつの間にか過度なドキドキも落ち着いてただただ楽しい時間だった。

桜城さんは妹さんが見ていた女の子が見るアニメなんかもよく一緒に見ていたらしく、私の話す美少女系アニメの話題にも反応してくれたし。

桜城さんの外見につられて視線を送っていた近所の席の女性達もいたけれど、聞こえてくるのが延々テレビアニメの話題だということにガッカリしたのか次第に視線も感じなくなっていた。

秋田角館で新幹線を降りると、さっきの話題を知らない女性達が桜城さんを視界に入れては手を繋いで歩く私をジロジロ見ていくのには少し嫌な気分になったけど、それは会社でも似たようなもんだし、もう今更気にしない。

っていうか、降りてからはまたあの甘い桜城さんの視線に捉えられてて、そんな事気にしてられる余裕も無い。

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