第38話 意外過ぎ
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ゆっくり歩いて最寄り駅まで。
GWだからか、私達と同じように大きな荷物を持った人もちらほら。
そんな中、
「あ」
突然、桜城さんが声を上げた。
「? 何かありましたか?」
ここまで来て忘れ物でも思い出した?
・・なんて事はないか。
チラリと、桜城さんの足元のスーツケースを見る。
何が入ってるんだろうと興味津々に見ていると
「大野さんがいる」
なんてちょっと驚いたようないつもと違うトーンで話す桜城さんに顔を上げる。
「大野さん・・・?」
桜城さんが話す「大野さん」というのはあの大野さんでいいのだろうか。
「ほら。あっち」
少し周りを見てもそれらしい人が見つからなくて桜城さんを見上げると、それに気付いた桜城さんが苦笑しながらこっそり指を差した。
指差された方向の改札の手前で所在無さ気に立っているのは。
「大野部長・・・?」
いつものかっちりスーツじゃない砕けた服装と下ろした前髪の所為で見た目がかなり若くなっている大野部長だった。ちょっと見別人かと思うくらい。
変貌ぶりにちょっとびっくり。
「待ち合わせかなんかでしょうか」
大野部長は手に携帯を持ち時々それを確認しながら、改札の奥を見ていた。
「あれは多分彼女待ってんだろうなー。GWだからって呼び寄せたんでしょ」
「っ。大野部長、彼女いるんですね」
今日がGWで良かったと思う。
支社の双璧二人共に彼女がいるなんて知れたら、作業者さん達のテンションが駄々下がりだろう。
「いるよー。遠恋なのにすっげラブラブ(笑)
んーと、研修の時会ってない? 本社の、我が社初の二十代で女性係長になった人。
今もう課長代理になってるけど」
え・・・。
「嘘・・・」
「嘘言ってどうすんの(笑)」
「だって」
件の女性は知っている。
それこそ、総務での新人研修の時に私の指導をしてくれた人だから。
銀色の細いフレームの眼鏡は理知的で、イメージそのまま仕事が出来て尊敬していた。
当時既に総務部エースだった彼女の指導のおかげで、私は今書類作成に困る事は殆ど無くて、ど新人の私に厳しくしてくれた彼女に感謝してるくらい。
あれから数年、生産管理部に異動になったあの先輩の名前を書類上で見つけては相変わらず綺麗な書類を作る人だなあと感嘆してる私がいる。
でも、なんか、自分もあんまりヒトのことをどうこう言える立場じゃないけど、どうにも彼女と恋愛が上手く結びつかなくて。
しかも相手が大野部長だなんて。
「あ、ほら。やっぱそうじゃん」
「え、どの人ですか」
ひとり記憶を遡っていると桜城さんはトランクを引きながら大野部長のもとへ歩いていく。
でも、桜城さんが言う方向に記憶にあるあの人の姿はみあたらなくて。
「ほら、あのオレンジっぽい色のカーディガン着てる人」
「オレンジ・・・って・・ええ!?」
カーデは見つけたけれど。
それを着ている女性は、私の記憶にいる人とはまるで別人だった。
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