第33話 仕事人間



私が知ってる桜城さんはキッチキチに予定を詰め込みたがる人だ。

さすがに取引相手との打ち合わせではそうでもないけど、社内での会議やミーティングでは予定時間の中で問題提起や解決法をきっちり入れ、予定時間ぴったりに終わらせる主義っぽい。

それが多少早く終わるならまだしも時間オーバーしようものなら普段出ない黒い部分がチラッと出て。

『あー、くっそ』

なんて低ーい声でぼそっと呟いたのを聞いた慣れない社員がビクついてるのをたまに見る。

普段の当たりが社交的で柔らかいだけに、ブラック桜城は怖いらしい。


さすがに旅行はそうでもないよね?

決まった予定が打ち込まれていく表計算ソフトの画面を見ながらそんな事を思う。

って言うか、決まった予定をそのソフトに打ち込むって・・・。

仕事人間がこんなとこで出てる(笑)

・・・けど。


「・・・」

「なに? なんかある?」

「いえ・・・(笑)」


これ、ホントは笑い事じゃないんだろうけど、なんかある意味期待通りというか。

思わず笑ってしまう。

ウィンドウには、表計算ソフト画面とマップと時刻表。PCの脇にはさっきの雑誌。

それらを確認しながら、ここからの出発時間に電車の出発時間に到着時間、駅からホテルまでの所要時間、更にそこから目的地までの所要時間や近隣のお食事処などが整然と打ち込まれていて、昔教えてもらった桜城式資料作成を思い出してしまう。


「だから何?」

「だって・・・(笑)」

「・・・詰め込みすぎ?

とりあえず外したくないとこを書き出してみたんだけど・・・」


さんは自分でも分かってるからか、私の苦笑に苦笑が返って来る。


「(笑)」

「一応、デートだからね。

観光の時間は区切らないつもりだから、行けないとこがあってもは別にいいと思ってる。薫がこれだけは見たいとか行きたいってとこがあったら遠慮なく言って?」

「、はい」


デートという響きにちょっと照れる自分。

社会人になって忘れてた乙女心を、桜城さんの隣で取り戻していく。


「とりあえず目ぼしいところは出したけど絶対に全部は行けないと思うし。

気になるところはまた行けばいいんだしね」


「また」と言ってくれるのも嬉しくて、これでまた少し桜城さんを好きになった気がした。

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