第31話 ハシタナイ想像




「これ以上くっついてたらキスだけじゃ済まなくなる」


妙にキリッとした表情でそう言い切った桜城さんは、テーブルの端に積んでた何冊かの本の中から2冊の旅行雑誌を抜いた。

それをパラパラとめくり、綺麗な桜の写真が見開きで印刷されたページを私に見せる。


「ゴールデンウィークさ、薫の都合が合えばだけど、桜、一緒に見に行かね?」

「桜・・・」

「綺麗だよきっと」


目の前には『東北桜名所』なんてタイトルの特集記事。

桜吹雪の中、手を繋いで歩く家族連れの写真が微笑ましい。

花は勿論綺麗で、一緒に載ってる桜を模したお菓子や土地の名物お料理なんかも美味しそう。

そりゃ、行ってみたい。

けど。

東北、ってことは完全に泊まりでしょ?

9連休に飛行機で行って日帰り弾丸ツアーなんてバカな事するわけないよね?

って事はよ?

数年拗らせ続けた想いが実は両想いだった男女。しかもいい大人!が!いきなりでも二人で旅行に出掛けて?

何にも無いとか、あるの?

思わず、自分のお腹に手を回して考えてしまう。

こっそり、ウエストのお肉をむにっとする。・・・・多分、平均くらいだと思う。

でも、細いとは言えない。


え?こんなんでいいの?

『あの』桜城部長の相手するのよ?


「・・・」


・・・・・・・・・・・・・どうしよう。

思わず顔を見上げると「いや?」なんてもの凄く残念そうな顔で訊いてくる。


「手とか繋いでさ、一緒に歩きたいんだよね」

「・・・手」

「ん? うん。

酒の席とか、社外では結構甘やかし倒してきた自覚はあるんだけどさ、周りがどう勘違いしてようと本人達は付き合ってない訳で。

それで手ぇ繋ぐのは我慢してた。

その我慢もしきれずに今日しちゃったけどさ(笑)

だからさ、とりあえずそんな事からしたいんだよね」

「・・・」


それはそれは可愛い照れ笑顔に、見てる私の方が恥ずかしくなる。

いや、自分の思考にか。

何もかも飛び越えて夜の想像なんて、ハシタナイにも程があるでしょ。


「だからさ。出来たら3泊4日くらいでゆっくり、俺と出掛けない?」


桜城さんと手を繋いでゆっくり歩く、なんて憧れないわけない。


「・・・行きたい、です」


遠慮気味にそう告げると目の前の笑顔が全開になって、脇で小さくガッツポーズしたのが見えた。




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