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第29話 足りない経験値

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ふ、と触れて。チュ、とくっつけて。チュ、チュ、と啄んで。

優しいキスに少しだけ緊張が解けて、唇が離れて数秒後、ゆっくり目を開けたら

見たことの無いような、溶けそうな笑顔で私を見ていた。

頬を両手で包まれて、またゆっくりと唇が重なる。

「ん・・・っ」

頬から耳の裏、頭の後ろに回った手と、ゆっくり下りていったもう片方の手が背中に回って

逃がさないとばかりにぎゅっと抱かれる。

それでもキスは優しくて。

ふっくらした唇で何度も何度もされるそれに、もう溶けそう。

「薫・・・」

名前を呼ぶ声もこれ以上ないくらい甘い。

「はぁ・・・桜城さん・・」

しっとりと重なった唇が離れていくと、思わず溜め息が漏れる。

「・・そんな声で呼ばれたら離せなくなんじゃん」

そしてまた重なる唇。

足りなくなった酸素を欲しがって開けた唇の隙間は、あっという間も無く桜城さんに塞がれてキスが深くなった。

伺いを立てるようにそっと舌先に触れてきた桜木さんの舌にちょっとだけびっくりしたけれど、同じようにそっと自分の舌を触れさせると一気に絡め取られて身体がビクッと震えた。

「ん・・」

「んん・・っ」

息が、足りなくて。

鼻ですればいいんだろうけど、緊張してそれも上手く出来ない。

吸えるけど、吐いた息が桜城さんに触れるのかと思うと吐けなくて。

気持ちいいのに苦しくて。

胸を少し押したらそれに気付いた桜城さんがやっと開放してくれて、肩に寄りかかりながら息を吐き新しい空気をすうっと吸うと、上からクツクツ笑う声が聞こえてきた。

「・・・笑わないで下さいよ」

どうせ経験値が足りないですよ。